約 997,956 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6823.html
前ページ次ページジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア 49.感謝の詩 ルイズが学院長の部屋で説明を受けているとき、マーティンは図書館にいた。 分からない事を調べる際にここ以上に最適な場所は早々無いが、 そんな知識の集積場でも、分からない事はある。死霊術師の魔術について等はその内の一つだった。 「ま、ある方がおかしいんだが」 と一通り教師専用の棚と目録を覗いてから、図書館を後にした。 何でこんなことをしているかといえば、原因はマニマルコである。 マーティン自身はこの国の人間では無いのだから、トリステインの為に戦ったりしようという気はそんなにない。 しかし、タムリエル帝国の敵にして死霊術師の長たるマニマルコが戦争に関わっているのなら、話は変わってくる。 もし、かの死霊術師がこのハルケギニアを手中に収め、何らかの手段でタムリエルに戻ったとしたら。 ただでさえ邪神との戦いで疲弊しているタムリエルに、彼の蠱の王が宣戦布告をしてきたならば。 あらゆる国が死霊に包まれ、アンデッドが住まう地になるだろう。 ゾンビが墓の中から這いだし、スケルトンが昼夜関係なく街という街に現れる。 メイジが変化したリッチダムが伯爵となり、帝都の玉座には蠱の王が座って高笑いを上げる。 考えただけで寒気がする。どうにかしなければならない。 つまるところ倒せば良いのだが、問題がある。 「どうすれば倒せるかということだ」 マーティンはメイジギルドにおいて優れた召喚魔法の使い手であった。 タムリエルにおける召喚魔法は、アンデッドの召喚もその内に含む。 学術上「広義の意味での死霊術」に分類されるそれは実験目的でのみ使用を許可される。 戦闘目的で使っているメイジの方が多いが、気にしてはいけない。今のメイジギルドにそんな事を気にする奴はいない。 だからマーティン本人もアンデッドに対して一定の知識を持っているが、 かといってゾンビの作り方や自身をリッチにする方法、更に言えばマニマルコの様に死んでもまた蘇る方法なんて知るはずがない。 一度(正確には二度)倒されても蘇ったマニマルコに対して、普通に挑んでも意味が無いことはマーティンも理解しているが、 死霊術そのものの知識が無い彼には、その対策を練る事ができなかった。 そんなわけで異世界の図書に頼ってみたが、 予想していた通り、そんな事について書かれた書物は見あたらなかった。 「ただのアンデッドなら、それなりにどうにかする自信はあるんだけどなぁ」 遺跡や洞穴、様々な場所でゾンビやスケルトンといったオーソドックスな物から、 実体の無い死霊、メイジや古代の王が変化したリッチ等と対峙した経験のあるマーティンは、 このやっかいな問題をどう片付ければ良いのか、悩みながらルイズの部屋に戻っていく。 名目上、マーティンの主人であるルイズも、二つの月が窓から綺麗に見える自分の部屋で、 詠みあげる詔について悩んでいた。四大系統に対する感謝の辞を、 詩的な言葉で韻を踏みつつ詠みあげなければならないのだが、ルイズは何も浮かばなかった。 「炎は熱いので、気を付けること、とか?」 韻を踏むどころか、詩的のしの字すら踏めていない。 しかしルイズはそれに気が付いていない。まったく詩の才能がないらしい彼女は、 それらは後で考えることにしてベッドにぽてっと寝ころび、始祖の祈祷書を眺める。 国宝だというのに、固定化がかかっていないのかぼろぼろで、中身には何も書かれていない。 「これ、本物なのかしら」 乱暴に扱えば、すぐに破れそうな紙を丁寧にめくっていく。 こういった始祖由来の品には偽物が多い。ルイズもそれくらいは知っている。 偽物か本物かを見分けようにも、リコードは下手に使うと危ないって、 ちいねえさまの日記で嫌というほど思い知ったし。 そこまで考えて、ルイズはオルゴールの事を思い出した。 「あの時は、指輪をはめたら音が聞こえたわね」 返すのを忘れてそのままもらってきた水のルビーを指にはめて、再び祈祷書を見る。 もしも本物だとしたら、何か反応があるに違いない。 そう思って見ていると、突然水のルビーと始祖の祈祷書が光り輝いた。 「……本物だわ」 故意にしたとはいえ、急に光り出したら普通驚く。 ルイズは光る祈祷書に、何か書かれている事に気が付いた。 古代のルーン文字で書かれていたが、ちゃんと授業を受けているルイズには読む事が出来た。 序文 これより我が知りし真理をこの書に記す。この世のすべての物質は、神によって創られた小さな粒より為る。 四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。その4つの系統は、 『火』『水』『風』『土』と為す。 ルイズの頭脳は知的好奇心に支配され、詔なんてそっちのけでページをめくる。 我は神より力を奪った。四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒より為る。 我が神から奪いしその系統は、四の何れにも属し、さらなる小さな粒にも干渉し、 影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。四でありまた始祖。始祖すなわちこれ『虚無』なり。 我が神より奪いし力を『虚無の系統』と名づけん。 「力を、奪う?」 その神とは夢の中で歌われたロルカーンの事だろうか、思わずつぶやいてページをめくる。 これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐものなり。またそのための力を担いしものなり 『虚無』を扱うものは心せよ。いずれ再び来る災いを呼び起こす者が、異界への『門』を 開けさせぬよう努力せよ。『虚無』は強大なり。また、その詠唱は永きにわたり、 多大な精神力を消耗する。 詠唱者は注意せよ。時として『虚無』は強力な力故に命を削る。 したがって、我はこの注意書きから封印されし書の読み手を選ぶ。 たとえ資格なきものが指輪やシシスの力を用いても、この書は開かれぬ。 選ばれし読み手は我とオリエルが創りし『四の系統』の指輪を嵌めよ。さればこの書は開かれん。 ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ 文章はそこで途切れて、後には白紙が続いている。 ルイズは、呆然として呟いた。 「オルゴールにリコードをした時に出会ったあんたも、どことなく頼りなさげだったけど。 いくらなんでも、注意書きまで封印しちゃ意味ないでしょうが」 「そう言ってやるなよ。色々大変だったんだよ」 部屋のインテリアとして扱われつつあるデルフリンガーが、ブリミルを庇った。 ルイズはその言いぐさにカチンと来た。そもそも、この剣が何も言わないから昔の事がよく分からないのだ。 今だって祈祷書について何も言わずに部屋の隅に転がっていたのだ。本物かどうかくらい教えてくれてもいいだろうに。 「ならいい加減口を割りなさいよあんたは」 「やだ、ぜったいやだ」 そのどこか人を馬鹿にした様な物言いにルイズは尚更腹を立てた。剣のくせに、ただしゃべるだけの剣のくせに。 人様にたてつこうなんて6000年早いわ。キッとルイズはデルフをにらみつける。 そして立ち上がり、ふところから杖を取り出す。 「ど、どしたね娘っ子」 デルフは怯えてルイズにたずねる。 「ねぇデルフ。あんた本体どこ?」 「どこだろう、刃かな…」 この後の行動が何となく予想出来たので、デルフはしれっと嘘をついた。 「ふうん」 ヴァリエールの女の血を思わせる表情で呪文を唱え、今正に放とうとした時、ドアが開いた。 マーティンが帰ってきたのだ。彼は怒り顔のルイズと怯えているらしいデルフを見比べる。 「えーと……ルイズ、何かあったのかい?」 ぷいっと顔をそむけて、ルイズはベッドに寝ころんだ。 「た、助かったぜ相棒」 「デルフ、また何かいらない事でも言ったんじゃないだろうね?」 そこまで言ってないとデルフは言ったが、マーティンはあまり信用せずに視線をルイズに向ける。 ルイズは怒りを表せずにむすっとしたままだったが、 無関係なマーティンに当たる訳にもいかないので、 むすっとしたまま先ほどの事について話す事にした。 「神の力を奪う……か」 ぼろぼろの祈祷書を調べるマーティンは、そんな話を聞いた事がなかった。 だが、実際にその系統を受け継ぐルイズがいるのだから、どうにかして奪ったのだろう。 マーティンは祈祷書をルイズに返す。 「序文以外は、何も見えなかったのかい?」 「ええ、その後は白紙が続いていたわ。必要になったら見えるのかしら?」 多分そうだろうと頷いてから、マーティンはどうやって祈祷書を手に入れたのかを聞いた。 「あ、そうだったわ。詔を考えないといけないの」 ルイズは、学院長から聞いた話をそのまま伝えると共に、 詩についてとても困っていると話した。 「なんも思いつかない。詩的なんていわれても、困っちゃうわ。私、詩人なんかじゃないし」 マーティンは頷く。そして優しげな声でルイズに話し始めた。 「なるほど。たしかに大変だね。けれど、君は一番大切な事を忘れているよ」 「大切な事?」 「アンリエッタ姫が君に頼んだという事だよ。素晴らしい詩を作らせて読ませるだけなら、 そういった事が得意な人を指名すれば良い。でも、姫様はそれをしなかった。 友達である君が作り、君が詠む詩を聞きたかったんだ。だから、そこまで難しく考える必要は無いよ。 思いつくまま、君が考える感謝の詩を綴れば良い。多少不格好でも問題無いさ」 ルイズはハッとした。考えてみればマーティンの言う通り、詩自慢な誰かに任せても良いのに、 アンリエッタは自分を選んだ。 きっと適当に選んだのだろうなんて思ってしまった自分が恥ずかしくなり、顔が赤くなる。 「そ、そうか。そうよね。別に完璧にしなくても良いわよね。炎は熱いので、気を付けること。 とかでも気持ちが伝わってたら構わないわよね!」 しかし、その言葉を聞いたマーティンの顔は驚愕に満ちた。 友達がスリを行っている現場を目撃した時のように引きつった表情で。 「……ルイズ、今なんて?」 マーティンは油断していた。というのも、ルイズはできる子である。 やればできるではなく、できる、なのだ。元々学業は実習を除いて優秀で、 それらの知識もただ暗記しているのではなく、理論と法則を理解した上で覚えているのだ。 そんな彼女であるならば、貴族のたしなみとして詩歌の一つや二つ、そらんじて言える程度には学んでいるに違いない。 そう思ったからこそ、さっきのような助言をしたのである。 本当にできないとは考えていなかった。 ルイズは何も悪くない。教えなかった親が悪い。ヴァリエール公爵は教えようとしたのだが、 奥さんに却下され、貴族の子女としてはそこまで必要にならない事柄しか教わっていないのだ。 尚、カリーヌ・デジレは詩的、とか雅、とかが全く分からない鋼の人である。 ルイズは何故マーティンがそんな顔をしているのか分からないまま、 言われた言葉に返事する。 「炎は熱いので、気を付けること」 「結婚式は、内々でやるんだよね?」 「王族の式よ。大々的にやるわね。観客もたくさん」 「その中で……ううむ。いかん。それはいかん」 そんな大層な式でこれに近い「何か」を「詩」として詠みあげれば、 彼女はトリステインとゲルマニアの両国で笑い者にされるだろう。 下手をすれば、末代まで語られる笑い話になるかもしれない。 どちらにせよ、ヴァリエール家の名前に泥を塗るのだけは間違いない。 マーティンはとりあえず死霊術について考えるのをやめ、深刻な面持ちでルイズを見る。 ルイズはきょとんとした顔だった。 「いけないの?」 「先ほど言った手前、少し言いにくいけれど。ルイズ、程度の問題だ。もう少し上手いと思っていたんだ」 ルイズは小首を可愛らしくかしげながら、マーティンを見る。 「そんなにダメ?」 「おそらく、君の家名に傷が付くくらいには」 「……なんですってぇええええええ!?」 家名を出されて、ようやくルイズは事態の深刻さを理解した。 大勢の観衆と結婚する二人が見守る中、巫女として詔を詠む自分。 詠みあげた後、背後から怒りの表情で自分を迎えに来る母と長姉の姿を想像して、 ルイズの顔は真っ青になった。 「どどど、どうしようマーティン!安請け合いしちゃったけれど、 考えてみればとんでもないことを引き受けてしまったわ!」 「ああ、確かにとんでもないことだね」 静かなマーティンと対照的に、ルイズは表情をころころ変えている。 不安で顔を青くしたり、臆面もなく引き受けた自分を恥ずかしく思って赤くしたりと大忙しだ。 ルイズはどうしようどうしようとベッドをごろごろ転がっていたが、 急に止まってマーティンを見た。 「代わりに作ってくれたりとか、しない?」 いつもの彼女なら、絶対にしない行為である。 自分でやらなければ気が済まない性質であり、 自分が任された仕事を他人に頼むなんてとんでもないと考えるのだが、 家名に傷が付くと言うのならば、話は別である。 ここ最近色々あったおかげで名誉欲は減ったが、 だからといって自分の行いで家族やご先祖様に恥をかかせるなど、 ルイズにとって恥ずべき行為だ。 上手い詩が考えられるのなら、一ヶ月の間に自分で考えて作るだろう。 だが、全く思いつかない。そして、彼女が信頼をよせるマーティンが、 いつも失敗を励ましてくれる彼が、それを撤回する程自分の技量は低いらしい。 なら、頼んだっていいじゃない。いっぱいいっぱいのルイズはそう考えた。 雨の日に、拾って下さいと書かれた箱の中に座る犬のような、 哀愁や悲しみや嘆きといった感情を詰め込んだ目つきで、 ルイズはマーティンをすがるように見る。 「こことタムリエルでは魔法について、そもそもの成り立ちやとらえ方が全く違う。 私はまだ、この世界の魔法を詩で表せるほど詳しく理解出来ていないし……そう言えば結婚式はいつだい?」 「確か一ヶ月後だったかしら。タルブでアンリエッタに聞いたわ」 一ヶ月で出来るだろうか。人々を感心させる程でなくてもそれなりに認められる詩を作れるだろうかと考えると、 マーティンは首を横に振りたくなった。 「一ヶ月、四つの詩、各系統についての理解……すまないルイズ。正直自信が無い」 「そ、そんな……」 ルイズの頭の中は真っ白になった。宮中からの草案についても少しだけ考えたが、 もらったとしても、それはあくまで草案であり決定版ではない。 そこから編修しなくてはならない。もしかしたらその草案もあんまり良くないかもしれない。 良くなかったら作るのは私よね?ガックリとうなだれるルイズは、両手を額につける。 「なんてこと。終わりだわ人生の。ああ、なんてこと」 そのまま顔を左右に振り始め、そして泣きだした。 不憫に思ったマーティンは、何か方法は無いだろうかと考える。 名案がひらめいた。 「そうだ!先生達に頼んでみるのはどうだろうか?」 ルイズはピタリと泣きやみ、マーティンをじっと見る。 目が少しばかり赤くなっていた。 「学校で各系統について教えている先生達なら、それぞれの系統について私達より理解しているだろう。 それに、ある程度は詩についても学んでいるだろうし」 「そうと決まれば早速行くわ!ついてきて!」 今まで以上にお家の名を汚す等、ヴァリエール家の娘としてあってはならない。 ルイズは早速部屋を飛び出し、とりあえず思いついた先生の所へ向かうのだった。 「なるほど。それでこんな時間に私の所へ来たのだな」 疾風のギトーは、必至な様相のルイズからではなく、 落ち着いているマーティンから事情を聞き取った。適切な判断である。 ルイズの判断が適切だったのかは分からない。 風といえばこの人くらいしか思い浮かばなかったのだ。 ギトーは眼光鋭くルイズを睨む。 「ちなみに、風についてはどう言うつもりだったのだ?」 ルイズは臆面無く言った。 「風が吹いたら、樽屋が儲かる」 「ミス・ヴァリエール。私は君の生まれについていつも疑問に思っていたが、今確信に変わった」 いつも通り胸をえぐる一言を添えたギトーは、涙目のルイズを見ながらため息をもらす。 ルイズが先ほどの返事を否定と受け取り、ドアノブに手をかけようとすると、ギトーはニヤリと笑った。 「よろしい。一週間で風の詩を書いてみせよう……私の詩が結婚式で詠まれるとはなんたる名誉か! 風を賛美する素晴らしい詩を姫様に送らねば!さ、考えなければならんのだから出て行ってくれ、早く出るんだ」 結局のところ風について書きたいギトーは、早々に二人を追い出して自室の扉を閉めた。 「次は土ね……シュヴルーズ先生に聞いてみましょう」 約束を取り付けて、少し落ち着いてきたルイズは小走りで駆け、 マーティンはその後をゆっくりと追いかける。 シュヴルーズは自室で、急にやって来たルイズの話を静かに聞き終えてから口を開いた。 「あらまぁ、それはそれは。けれどミス・ヴァリエール。よろしいのですか? あなたが作るはずだった詩を、私が作るのですよ?ためしに何か、土で詩的な言葉を言ってごらんなさい」 ルイズは、考えられうる限りの詩的な言葉を探し、口に出す。 「土崩瓦解」 「なるほど、分かりました。あなたには詩の勉強が必要のようですね」 先ほどからダメ出しばかりを浴び続け、ルイズは色々ヘコんできていたが、 シュヴルーズはそんな彼女を励ますかのように優しげな表情を浮かべている。 「聞くところによると、最近魔法が使えるようになったとか。あなたの努力のたまものですよ」 「先生……」 先ほどのどぎつい風の教師と違い、暖かな視線でルイズを見つめるシュヴルーズは、 間違いなくちゃんとした教師の心を持っていた。 「私を吹き飛ばしたのも、無駄では無かったと思ってほっとしています。 詩は一、二週間で書き上げましょう。この年になってこんな大役を仰せつかるなんて、 人生とは何があるか分からないものね」 シュヴルーズに優しく撫でられてから、ルイズは礼を言ってゆっくりとドアを閉めた。 見送ったシュヴルーズは羽ペンと紙を用意し、眠る前に詩の始めを考えることにした。 「歌心が……無いって何?」 シュヴルーズの部屋から出て既に数時間が経過している。 水系統で顔見知りでも、そうでなくても全ての先生に当たってみたが、 結局全て断られた。曰く、歌心が無いから結婚式の詔なんて考えられない、とのことであった。 「案外、君の様な人が多いという事じゃないだろうか?」 「多くても詔を詠みあげて笑われるのは私よっ!そしてヴァリエールの名も!!あああどうしようどうしよう」 また頭を抱えながら、ルイズは立ち止まらずに歩く。別にどこか目的地があるわけではない。 失敗を考える事による焦りから、とりあえず動いていないと落ち着かなかったからだが、それが上手く働いたようだ。 「何してるの?」 どこかの廊下を歩くルイズは、声が聞こえた方に視線を向ける。最近それなりに仲が良くなったタバサが、 自身と同じくらいの大きさの袋を、レビテーションで宙に浮かせている。浮かんだ袋からは良い匂いが漂っている。 「タバサ。それ、何?」 「夜食」 それだけ食べるのか、とか何でそんなに食べてそんな体つきなのかとかを問いただす前に、 ルイズの頭に閃きが起こった。そう言えば、この子はたくさん本とか読んでるわよね。と。 「タバサ!歌心っていうか詩心っていうか、そういうの持ってる?」 タバサは何も言わず、頭を左に30度程傾けた。 上手く説明したいが伝わらない。焦っていつもの思考でないルイズに代わり、マーティンが話しかける。 「ミス・タバサ。君は詩を作ったりしたことは?」 「よく作る」 「実は詩について困っているんだ。力を貸してもらっても?」 「分かった」 タバサは、信頼できる友人を大切に扱う。ルイズはキュルケほど信用しているわけではないが、 友人ではある。彼女の行動によって自分は薬を手に入れる事が出来たのだから、 詩くらいなら作っても良いかな、とタバサは考えた。 「ああ、ありがとうタバサ!それで、こういう訳なんだけど」 笑顔で説明するルイズを見て、引き受けた事自体が間違いではないか。 とタバサは思ったが、それを口には出さず、何も言わず頷いた。 「あなた、確か水と風を得意としていたわよね?水の詩を作って欲しいんだけど」 「風は誰に?」 「ギトー先生」 「風の詩も作っておく」 表情を変えずそう言って、夜食を浮かしながらタバサは去っていった。 「ギトー先生は、ダメな類なのかしら?」 ルイズは、なんとなく呟いた。 「出来を見るまで分からないさ」 なんとなく予想は出来たが、マーティンはそう答えた。 「これで三属性は頼めたから、後は火だけね」 ルイズは、夜の暗い廊下をマーティンと共に歩いている。 後一つで終わる事もあって、足取りが先ほどよりも軽い。 「誰かいい人はいないかしら……思いつかないわね」 「ああ、火か……」 マーティンはそういえば、と塔の外に出る道を進む。 「当てがあるの?」 「まぁ、多分」 本塔と火の塔に挟まれた一角にある、見るもボロい掘っ立て小屋に着くと、 マーティンはその戸を叩く。中から現れたのはルイズも良く知る火の教師だった。 「こんな時間に誰かね。おや、これはこれは……」 「どうも。ミスタ・コルベール」 「ここにいらっしゃったということは、暇が出来たということですかな?マーティンさん」 暇とは何のことだろうか、ルイズにはよく分からなかったが、マーティンは微笑んでいた。 「ええ、そんなところです。それと少し別の件で……」 「ええ。構いませんとも!その『タムリエル』について色々聞かせてもらうのですから。 ささ、ちらかっておりますがどうぞ中に」 真夜中の来訪者である二人を、コルベールは部屋の中に招き入れ、ドアを閉めた。 前ページ次ページジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5682.html
前ページ次ページ炎神戦隊ゴーオンジャー BUNBUN!BANBAN!クロスオーBANG!! 次回予告 「ガンパードだ。秘宝『ルサールカの鎧』を狙うフーケ。阻止はできるか」 「ヒロインといっても、1人ではないんでおじゃろう?」 「GP-08 奇襲ツチクレ ――GO ON!!」 モット伯邸を壊滅させ(シエスタを除いて)意気揚々と学院に帰還するルイズ達。 しかしもうすぐ学院が見えてくるという時、突然蛮ドーマ機内に警報が響いた。 「な、何!?」 「む、あそこは確か宝物庫!」 操縦するキタネイダスの言葉にルイズが宝物庫に視線を向けると、身長30メイル近い巨大な土人形が宝物庫の壁を殴りつけていた。 「ゴーレム!?」 急加速して蛮ドーマをゴーレムに接近させたルイズ達は、呆然としつつもその様子を見守っていた。 一撃で宝物庫の壁が崩壊し大穴が空いたかと思うと、ゴーレムの腕の上を人影のような何かが駆け抜け穴に飛び込んでいった。 「泥棒!?」 聞こえないはずのシエスタの言葉に反応したかのように、ゴーレムは蛮ドーマめがけパンチを放ってきた。 「くらうぞよ!」 蛮ドーマの砲撃でゴーレムの腕の一部が弾けたものの、即座にその傷が修復された。 「再生能力かよ……」 「少々分が悪いでおじゃるな……」 「ミス・ヴァリエール、相手が悪すぎます。ここは逃げましょう」 「蛮ドーマ、最大出力ぞよ!」 「駄目! それじゃ泥棒が逃げちゃう!」 「何言ってんだお嬢! あいつに勝てるわけねえだろうが!」 「メイジがいればそいつを狙えばいいが、中に入られては蛮ドーマの火力であいつの相手は無理ぞよ」 「キタネイダスの言葉通りなり。あの大きさから見て、トライアングルかスクウェアクラスのメイジなり。蛮ドーマでは勝算が無いなり!」 残念ながらヨゴシュタインの正論は仇になった。「トライアングルかスクウェア」の忠言は、ルイズの心を煽ってしまったのだ。 「トライアングルの土メイジって……、まさか『土くれのフーケ』?」 「そ、そうかもしれません……。そんな相手じゃ奇跡でも起きないと……」 「それならなおさら逃がすわけにはいかないわ!」 ――GP-08 奇襲ツチクレ―― 「相手に後ろを見せないのが貴族よ! 奇跡が起きなきゃ勝てないなら奇跡を起こして――」 「ルイズ」 そんなルイズの言葉を遮ったのは、それまで沈黙していたケガレシアだった。 「ギーシュとの決闘の時やさっきのモット伯邸での時、奇跡が起こったと思うでおじゃるか?」 「えっ……?」 「自分とわらわ達を誇ろうとするルイズのため、シエスタを助け出すため、わらわ達は一丸となったでおじゃる。そんな結束の結果でおじゃる」 脳裏に嬉々としてセンプウバンキを作ろうとしているキタネイダス達の姿、モット伯邸侵入の際巡回の衛兵を始末したデルフリンガー・イカリバンキの姿が浮かび、ルイズは思わず目を閉じた。 「ヒロインといっても、1人ではないんでおじゃろう?」 「……ケガレシア……。……わかったわ。起こらないから奇跡って言うのよね。だから全力を尽くすわよ」 「違うでおじゃる、ルイズ。奇跡は起こるでおじゃる。でも最高の奇跡は既に起きているでおじゃるよ」 「もう? 最高の奇跡が?」 「わらわ達がルイズに召喚されて使い魔になった。それが最高の奇跡でおじゃる! それ以上は……無いでおじゃるよ!」 「ええ!」 ルイズの言葉に満足げな笑みを浮かべケガレシアは頷いた。そして砲撃でゴーレムへの牽制を続けるキタネイダスに、 「キタネイダス、シエスタを安全な場所まで頼むでおじゃる。わらわ達はフーケとかいうあのゴーレムを使っているメイジを追うでおじゃる」 「任せるぞよ」 「ケガレシア、行くわよ!」 「無論でおじゃる!」 そう言い終えるが早いか、2人は蛮ドーマから飛び降りていった。 「こいつが『ルサールカの鎧』かい」 水晶にも似た透明で堅固な物質でできた箱の中から取り出した目的の物を抱え、フーケは呟いた。 全体的に薄い赤銅色、どこの家の家紋なのか随所に渦巻き模様の紋章らしき意匠が施された鎧。手甲には盾と一体化した騎槍が握られていて、兜の支えらしい青い仮面は左半分に亀裂が入り端整な容貌を不気味な雰囲気に変えている。 ワイバーンすら打ち倒す魔力とは、この鎧が装着者に与える魔力とはいったいどれほどなのだろうか。 (まあ、自分で使うよりは売った方が金になるだろうね) 長居は無用とばかりフーケは入ってきた穴に向かった。外からは轟音が聞こえてくる。追っ手の動きが予想以上に早かったようだ。 「土くれのフーケ!!」 「観念するでおじゃる」 穴から出たフーケの視線の先で大剣を手にした薄桃色の髪の少女と、鞭を構え銀色の部分鎧を纏った女性がゴーレムの腕の上に立ちはだかっていた。 即座に2人を排除するための計算を脳内で開始する。 (宝物庫の中に戻って本来の出入口から脱出する……こんな騒ぎになってたらすぐ見つかる。却下) (ゴーレムに腕を振らせて振り落とす……私も落ちるじゃないか。却下) (ゴーレムを土に戻して生き埋めにする……だから私も生き埋めだろ。却下……待てよ) その時、フーケの頭に却下しかけた作戦の改良案が閃いた。 即座に杖を振り、宝物庫の穴にかけているゴーレムの手首を石化させる。 「足場の確かさの差が戦力の決定的な差じゃない事を教えてあげるわ!」 「待つでおじゃる、ルイズ!」 ゴーレムの腕の上を駆けてフーケに迫ろうとするルイズだったが、 「目障りだ、埋まれ!」 その言葉と共に石化していた手首を除くゴーレム全体が土に還元された。ルイズは手首目指して咄嗟に跳躍したものの、わずかに及ばず腕を構成していた大量の土砂と共に落下していった。 「ああ! ちょっと、埋まっちゃったじゃない!」 2人の様子を地上から見上げていたキュルケは冷や汗をかいた。 これだけの騒動に彼女達が気付かなかったわけがない。魔法を使っても致命傷にならないならばフーケを狙うしかないと、シルフィードで上空を旋回していたのだ。 ゴーレムの手に立つフーケらしい人影が積極的にルイズ達を狙っているようなのでその隙に、と思った途端に土砂の大量落下だ。 ルイズ達が埋まったのを見て、フーケらしき人物は満足そうに頷き塔に開いた穴から飛び降りる。どうやらこのまま逃げるようだ。 「タバサ! 追いかけなきゃ!」 「……助けないと……」 「そうね……」 タバサの指差した場所に視線を向けると、校舎の3階部分に届こうかという土の小山が見える。先程フーケのゴーレムが土に戻った場所、ルイズ・ケガレシアが埋まっているだろう場所。 それを見てキュルケは額に手を当て溜め息を吐きつつ、恨めしげに逃走するフーケを睨みつける。 学院の外壁を飛び越えフーケは姿を消した。 『「ルサールカの鎧」、確かに領収いたしました。 土くれのフーケ』 夜も明けぬうちに、トリステイン魔法学院は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。 何しろ宝物庫に納められた「ルサールカの鎧」が盗まれたのだ。それもゴーレムで壁を破壊するという大胆不敵な方法で。 口々好き勝手喚いて責任の擦り合いをしている教師達のもとに、ミス・ロングビルが近所の森をうろついていた不審者の情報を持ってきた。 「では捜索隊を結成する。我と思うものは杖を上げよ!」 オスマンの宣言に呼応するかのように1本の杖が上がり、それに2本の長い杖と1本の鞭が続く。 周囲の教師達の視線が4人の人物に注がれた。最初に杖を掲げたルイズ、そしてそれに続いたヨゴシュタイン・キタネイダス・ケガレシア。 「ミス・ヴァリエール、ミスタ・キタネイダス、ミス・ケガレシア、ミスタ・ヨゴシュタイン! あなた達は生徒とその使い魔ではありませんか! ここは教師に任せて……」 「その教師の誰が杖を掲げているんですか、ミセス・シュヴルーズ? そう言うのならあなたも同行しますか?」 「ふん、ヴァリエールには負けられませんわ」 「……心配……」 負けじと杖を掲げるキュルケを見てタバサも杖を掲げた。さらにギーシュも、 「僕にも手伝わせてもらおう、ミスタ・ヨゴシュタイン。僕も決闘以来修行を積んでいるのでね。足手まといにならない程度の力は付けたと自負しているよ」 オスマン・コルベールは不安を覚えた。 強力な炎メイジのキュルケ・シュヴァリエのタバサ・そして何より「蛮機獣」という強力なゴーレムを作り出せるルイズの使い魔達……。戦力としてだけなら楽勝とはいかないまでも不安はほとんど無い。 問題はそれ以外の部分……特にルイズの使い魔達だ。 コルベールは魔法に依存しないでマジックアイテム同様の効果を発揮する道具を開発する技術(ヒューマンワールドにおいて「科学技術」と呼ばれている技術)に大きな関心を持っている。 魔法に依存せずとも魔法と同じ力を得られれば、魔法を使えない多数の平民も魔法と同じ恩恵が得られると信じている。 しかしそれも魔法同様使い方次第の単なる「力」であり「道具」、悪用・暴走によって大きな悲劇をもたらすものだという事も知っている。 決闘の時3人が見せつけたのは、コルベールには求めてやまない異界の技術の暗黒面を見せつけられたように思えた。 (私の危惧が的中していたら、ミス・ヴァリエールは……) 自身の使い魔とそれを召還した自身の力に恐怖のあまり心を閉ざす、それは重大な問題だがまだ最悪ではない。 幼少の頃より魔法が使えない事に苦しんだだろうルイズが魔法によらない強大な力を得た事で、使い魔達と共に自分を苦しめてきた魔法と疎んじてきたメイジに復讐の牙を剥いたら……、 (私には彼女を止められるだろうか……?) 実時間にして1分足らずの間にコルベールはこの先一生分と言えるほども考え抜き、 「……私も行きましょう。大人達は子供を守る、それが私の子供の頃も私の両親が子供の頃も変わらない常識です。子供達に戦わせて大人が後ろで高見の見物と決め込むなど、あってはなりません」 「よし、決まりだ。討伐隊はこの8名。ミス・ロングビル、案内役を」 「はい」 「今すぐ出発と行きたいがこの闇夜では不利じゃろう。夜明け頃に到着するように出発は3時間後じゃな。……よいか! わしが許可するのは『ルサールカの鎧』の奪回だけじゃ。無謀な行動はするのではないぞ。そして皆、必ず生きて帰ってきてくれ」 『杖にかけて』 前ページ次ページ炎神戦隊ゴーオンジャー BUNBUN!BANBAN!クロスオーBANG!!
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7306.html
前ページ次ページzeropon! 第10話 真夜中の訪問者 二つの月が草木を明るく照らす、そんな夜のこと。 その日の昼間、貴賓が招かれた学院では使い魔のお披露目会が開かれていた。 各人が思い思いの方法で、召喚した使い魔を披露する中、 ルイズとパタポン達は歌劇『ぱたぶランカ~愛のしもふりにく~』を上演。 その物悲しくもハートフルでバイオレンスな物語は観客を魅了。 最後にはスタンディングオベーションの喝采を浴びるほどだった。 このお披露目会に気を良くしたルイズは、夕食後、自室でメデンが持ってきた、 銘酒『パ王』を景気よく飲んでいた。 コン、コン…コンコン ルイズの部屋の扉がノックされる。 ルイズの相手をしていたメデン。こんな夜更けに誰だろうか? 既に草木も寝ようとする夜更け。訝しみながらも 「どうぞ、扉は開いております」 と、入室を促す。かちゃり、と静かに開いた扉から現れたのは、 フードを目深に被った女性。彼女は後ろ手に扉を閉める。 次に取り出したのは一本の杖。その様子を見て身構えるメデン。 しかし振られた杖には攻撃の意思はなく、一度光るとそれきりのまま 再びしまわれる。そして彼女はその顔を隠すフードを外した。 「どこに聞き耳をたてる者がいるかわかりませんからね」 現れたその顔をメデンは知っていた。見たのは今日の昼間。 お披露目会の会場の貴賓席。その中にいた王族の一人。 その姿は一輪の気高き花。王国の至宝。 「貴方は、王女さま?」 彼女はアンリエッタ・ド・トリステイン。この国の王女である。 彼女のことをメデンはルイズから聞いていた。 ルイズと彼女は幼い頃、共に過ごしていたらしい。 いわゆる幼馴染である。そんな二人だがやはり王女という 身分が妨げになっているらしく久方ぶりの再会なのであろう。 と言って、椅子に座るルイズにガバリ、と抱きついたアンリエッタ。 「ああ!おひさしぶり、ルイ、酒臭っ!」 と叫ぶとルイズから身を急いで離す。 よくみればルイズの傍らの一升瓶に入ったパ王。 度数45度と書かれたそのビンの中身は既に半分空いており、 そして、それを手酌するルイズの瞳はがっつりと据わっていた。 「ええと、る、ルイズ?」 恐る恐るルイズの顔を覗くアンリエッタ。それをぐいんっ、と 頭を振って睨み付ける。 「ひいっ?!」 ビクリっと身をすくめるアンリエッタ。彼女に差し出されたのは一杯の酒。 先ほどルイズが手酌した一杯である。 「飲んで」 ずずいっと、据わった目を向けながら杯を押し付けるルイズ。 「え、いや、ルイズ、私、お酒は…」 「飲んでくれないの?」 途端、今まで据わっていた目がうるうると潤みだす。 その目はまるで小動物のような愛らしさ。 アンリエッタは思い出した。 この目だけはダメだ。この目をされると何も断れなくなる。 子供の頃のおままごと。彼女が今と同じように差し出してきたのは 泥水のワイン。そして同じ瞳で彼女は言う『飲んで』と。 それを飲み干したばかりに三日三晩かけて死に掛けた。 そして再び今、彼女は 「いただくわ、ルイズ」 自ら死地に飛び込んだ。 一時間後… 「あはははは!」 「あはははは!」 部屋に高らかに響く哄笑。 あげているのはもちろんルイズ、そしてアンリエッタ。 高らかに杯を上げて乾杯をしては飲み干していくその様を見て、 メデンはため息をつき、あきらめたように部屋を後にした。 残ったのは酔いどれ×二匹。 結局、朝まで続いたこの狂宴、朝になり姫が居ないことに気づいた 摂政マザリー二が部屋にやってきて、 「酒臭っ!」 と叫ぶまで続いた。 「ううううう、あたまいたいー」 ふらふらと、パタポン砦の前まで現れたルイズ。 それを心配そうに支えながらメデンが傍らにいる。 二日酔いのまま、なぜルイズがここに来たのかというと、 アンリエッタが完全に酔う前にルイズにお願いしたことにあった。 曰く「アルビオンのウェールズ皇太子に宛てた恋文を取ってきてほしい」とのことだった。 アンリエッタにお願いされたルイズは使命感から安請け合いしていたが、 アルビオン…この地名にメデンは覚えがあった。 情報収集に使っているフーケから聞いた情報の中、 現在のアルビオン、クーデターが起こっているとの情報があった。 貴族派と呼ばれるクーデター軍は既にアルビオンの大半を手中に収めているらしく、 既に王城付近に押し込められた王党派と呼ばれる正規軍が弱弱しい抵抗をしているだけらしい。 このような場所に神ルイズを行かせるのは危険である。 しかし、二日酔いの状態で意地でもいく、と言い張る彼女を説得するのは難しかった。 それにこのことはパタポン族全体にもかかわることであった。 トリステインが現在推し進めている王女アンリエッタと、隣国ガリアの王との婚姻。 これが事の発端である。これは小国であるトリステインが戦火が拡大するアルビオンへの牽制。 そしてこの先、動乱が起こりつつある世界を生き残るための政策である。 これを進める上で、ウェールズに送っていた恋文などが公になれば 進めている全ての事が無駄になる。 それを危ぶんだ上でのアンリエッタの依頼なのであろう。 トリステインが戦火にさらされればパタポン族、そしてもちろんルイズにも火の粉が及ぶ。 ならば、今のうちに…とメデンは考えていた。 極秘任務のためと思いつつ頑張ってルイズがふらふらと砦の前に着くと、 「おそいわよ!ルイズ」 「五分で仕度」 「さあ!姫の依頼を果たそう!」 なんかたくさんいた。 「…キュルケ、タバサは慣れたからもういいわ。…だけど何でギーシュもいるのよ!」 「はははは!簡単なことさ!昨日の夜、モンモラシーに夜這いをかけたら窓から放り出されてね! 地面で伸びていたらたまたま姫君が通られたから後をつけただけさ!」 轟然と胸を張るギーシュに、ルイズ必殺の拳が顔面に叩き込まれる。 しかしそれは黒い影に防がれる。 「な!私のルイズ・ナッコーが!?何者?!」 ルイズの拳を防ぐそれは…モグラだった。巨大なモグラが二人の間に地面から現れ、 ルイズ・ナッコーをその前脚で受け止めている。 「ああ!ヴェルダンディー!ナイスだ!」 どうやらこのモグラ、ギーシュの使い魔らしい。モグラにひし、と抱きつくギーシュ。 「おのれええ!」 地団太を踏んだルイズが、愛情表現のキスを行うギーシュごと爆発で吹き飛ばそうとしたとき、 突然の突風にモグラことヴェルダンディーごとギーシュが吹き飛ばされた。 「僕のフィアンセに手を出さないでもらおうか」 その突風と声の持ち主は上空から舞い降りた。 それは一頭のグリフォン。猛禽の頭と獅子の巨躯を併せ持つその獣は ハルキゲニアでも誇り高く獰猛な種である。 そしてその猛獣を従えてその男は地に降り立った。 機能的な服装。腰に挿した実用的なレイピアの如き杖。 服に包まれた身体は薄くも強靭そうな筋肉に包まれている。 精悍な顔には薄く髭があり、そしてその眼はそれこそグリフォンのようだった。 「な、何者だ!僕とヴェルダンディーをよくも!だいたい手を出してきたのは 貴方の婚約者のヴァリエええええええ?!婚約者?!」 素っ頓狂な声を上げるギーシュ。キュルケもタバサも驚きに目を見開く。 「あなた誰?」 キュルケが不審げにその男に尋ねる。 「おっとこれは失礼。私はグリフォン隊隊長ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。 アンリエッタ王女の命により参上した」 皆が一様に驚く中、彼はきょろきょろと周りを見渡す。 「ところで…僕の愛しのルイズはどこかね?」 優雅に聞くワルド。そのワルドにキュルケは腕を組んだまま指だけでその方向を指す。 ルイズがいた。モグラとギーシュと一緒に吹き飛ばされていた。 さあっと顔が青くなるワルド。それはそうだろう。婚約者を吹っ飛ばしたのである。 ぐったりしたままのルイズ。傍らにいるのはメデン。メデンは静かにルイズに向け手を合わせ、 その後ぱんぱんっと手を叩く。砦から一匹のキバポンが荷車を引いて現れた。 だがそのキバポン、顔にオレンジ色の面をつけていた。 それは召喚されたときメデンの傍らにいたパタポン、ヒ・ロポンである。 彼はからからと荷車をルイズの横につけると、ひらりと馬から降りて、 メデンと共にうんしょ、うんしょと荷車にルイズを積む。そしてメデン、ヒ・ロポンがつみ終えたのを見ると、 キュルケ、ギーシュもパンパンと土を落として馬に乗る。タバサも使い魔の蒼い竜に乗る。 皆、無言でメデンを後ろに、ルイズを荷車につんだヒ・ロポンについていく。 からからと無情の音をたてて進む一行。やがて門からは見えなくなった。 取り残されたワルドは…数刻経ってからとぼとぼと、グリフォンに乗り込み 一行の後を追った。 前ページ次ページzeropon!
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4511.html
前ページ次ページ虚無の魔術師と黒蟻の使い魔 「諸君。決闘だ!」 ギーシュが高らかに宣言する。 周りの野次馬たちから喚声が上がる。 ギーシュは野次馬の喚声に応え手を振る。 ギーシュはここに至り多少の冷静さを取り戻し、そして開き直った。決闘であれば問題ない、と。 決闘自体は問題だ。本来禁止されている。おそらくこの騒ぎが終われば、学院から幾日かの謹慎なり、何か処罰が言い渡されるだろう。 だがそれはルイズにも言えることだ。 決闘であれば、決闘をした両者が悪い。 もしルイズを香水のビンを拾ったことで責めていたなら、明らかにギーシュ一人に非がある。 だからと言ってルイズにメイドを連れて行かせたら、ふられた上にルイズにやり込められるという恥の上塗り。 それに比べれば決闘という形で両者が処罰を受ける痛み分けの形は随分ましだ。 そして、決闘の中身でルイズに二度と生意気な口を聞けぬようにしてやれば良い。 「二人のレディーと、そして僕自身の誇りのために僕は闘う!」 ギーシュは薔薇を模った杖をルイズに向ける。 「『二人のレディーのため』はやめろと言ったでしょう。あんたは二股がばれた腹いせに決闘するのよ」 ルイズはギーシュに睨み返す。 「早く始めるぞ、ゼロのルイズ。もたもたしていると次の授業に間に合わなくなるからな。いくら授業に出ても魔法の使えるようにならない君には関係ないのだろうがね」 ギーシュは鼻息荒く侮蔑の言葉を返す。 「シエスタ。下がってなさい」 ルイズの言葉に従い、シエスタはルイズから離れる。相変わらずその目には不安がありありと見える。 それを確認したルイズはギーシュのほうへと一歩踏み出す。 「ふん! 覚悟はできているようだな」 ギーシュが薔薇の杖を振る。すると一枚、花弁がはらりと落ちる。 地面に花弁が落ちた瞬間、そこに一体のゴーレムが現れた。 鎧に身を包んだ女騎士のような姿。 大きさこそ平凡だが、所々に細工の入ったワルキューレの造型の見事さに、周囲から静かな歓声が上がる。 「これが僕のワルキューレさ」 ギーシュが得意げに言う。 「魔法の使えない君には一体で十分だろう。一体だけでも手も足も出ないだろうからね」 一体で十分。 この決闘の狙いはルイズを痛めつけることではない。もし取り返しのつかない怪我でもさせてしまったなら、謹慎では済まないだろう。 それは避けなければならない。 この決闘はルイズに実力差というものを見せつければいい。上下関係をはっきりさせてやればいい。 だからこそワルキューレは一体しか出さない。余裕で勝利して見せることこそが重要。 「何よ! 全力できなさいよ!」 ルイズはギーシュに食って掛かる。 「ひょっとして負けたときの言い訳? 『全力出してたら勝てました』とか後で言われても面倒だし、最初っから出せるだけ出してくれない?」 「ハッ! 笑わせるな、ルイズ。ゼロを相手に本気を出せるわけないだろ。……そうだな、君が万が一にも僕のワルキューレを一体でも倒せたなら本気で闘ってあげよう」 ギーシュは髪をかきあげ、余裕綽々といったポーズを作る。 あくまでもどちらが上かを思い知らせるための闘い。できる限り余裕の姿勢は崩さない。 そんなギーシュを見て、ルイズは内心で安堵の息をつく。 ギーシュへの挑発は賭け。だが、賭けは成功した。しかも理想の形で。 ワルキューレを複数出されては勝ち目は薄い。だが、一体しか出してないからといってそれを好機と闘っても、いつさらなるワルキューレを作るかわかったものではない。 だが、挑発によってギーシュから「ワルキューレを一体倒したなら本気を出す」という言質を取った。 体面ばかりを気にするギーシュが野次馬の前でそう宣言してしまった。ならば、そう簡単に言葉を覆すことはできない。 ギーシュは今出しているワルキューレが倒されるまで本気を出せない。 状況が差し迫ればそんな宣言を覆して新しいワルキューレを作るだろう。だが、どんなに差し迫った状況になろうとも、ワルキューレを作るのに一瞬の躊躇があるはずだ。 それで十分。 それで勝てる。 「さて、お喋りもお終いだ。さっさとかかって来たまえ」 ギーシュが言うと、ワルキューレがギーシュとルイズのちょうど中間あたりに立ち、構える。 先手は譲ってやる、ということだろう。 だが、ルイズは杖を構えることなく、再び口を開いた。 「その前にギーシュ。この決闘。勝ち負け決めて、それでお終いじゃつまらないわ。なにか、賭けましょう」 「賭け?」 ギーシュが訝しげな表情を浮かべる。 「そう。賭けよ。あぁ、『誇りを賭けて』なんてのはよしてよ。二股がばれて八つ当たりするようなあなたの誇りと私の誇りとじゃ価値が違いすぎるもの」 ギリ、とギーシュの歯が鳴るが、それは野次馬たちの耳には届かない。 安い挑発に乗る気はないが、二股云々言われるのだけは堪える。野次馬たちも二股という単語に反応してぎゃぁぎゃぁと喚く。もうこの決闘がどういう形に終わろうと、暫くは二股ネタでからかわれるのだろう。 忌々しい。 ルイズのせいで散々恥をかかされた。ならば、この決闘でルイズを完膚なきまでに虚仮にしてやろう。 「そうだな、ルイズ。僕が勝ったら……まぁ、僕の勝ち以外ありえないが、今後授業で魔法使わないでくれ。この間の錬金のように授業を潰されたら堪らないからね。 先生から魔法を使うように指示されたら『私が魔法使っても爆発して授業に迷惑をかけるので他の人を指名してください』と言うんだ」 ギーシュの言葉に野次馬が沸く。 同級生たちは少なからずルイズの魔法に迷惑している。 「そいつはいい! ギーシュ、とっととルイズを倒してしまえ!」 「これでルイズに授業を妨害されなくて済む。魔法の修行もはかどるってものだ!」 マリコルヌら、普段からルイズをゼロと揶揄するものたちはここぞとばかりにギーシュに便乗して騒ぎ立てる。 ギーシュはギャラリーの反応に気を良くし、得意げな笑みを浮かべている。 「私が勝ったら……」 ルイズはギーシュを睨みつける。 「私が勝ったらシエスタに謝りなさいよ」 ルイズは言った。 「シエスタ?」 ギーシュはその言葉の意味がしばらく理解できなかった。 それは周囲の野次馬たちも同じだった。「シエスタ」という単語が何を意味するのか理解できない。野次馬たちがざわつく。 しかし、そのざわつきも少しずつ収まっていく。その単語の意味を理解したものから口を閉ざし、その「シエスタ」に視線をやる。 騒々しかったヴェストリの広場に一瞬の沈黙が流れ、全ての視線が一箇所に集まる。 「は、ははっ……。成程な……」 沈黙を破ったのはギーシュだった。 「平民に頭を下げろとはね……。成程成程……。君はよっぽど僕を侮辱したいらしいな」 貴族が平民に頭を下げるなど有り得ない。貴族が上で平民は下。この関係は絶対である。 この場にいる生徒たち。その中に平民に頭を下げたことがあるものはいないだろう。そしてこれからもそうやって生きていくのだろう。 だから彼らは、ルイズの真意はギーシュに恥辱を与えることにあると、そう認識した。 シエスタに視線が集まりはしたが、誰もシエスタを見てはいない。ルイズがギーシュを辱めるための『だし』としての存在。そのように見ていた。 誰も、単純にして明快なルイズの真意を理解していなかった。 「ふん! なんとしてでも僕を侮辱したいようだが、どうせ僕の勝ち以外有り得ないからな。どんな条件だろうとかまいはしないさ」 ギーシュが見得を切る。 ルイズが突然口を出してきたところから、理解の及ばぬことばかりだった。平民に頭を下げるなどという最大級の恥辱。なぜそこまで突っ掛ってくるのか理解できない。 だが、この決闘で勝てばそれで済む話だ。 理解できないものを理解する必要などない。所詮はゼロ。端から理解の外にいる存在なのだ。 「では、いざ尋常に勝負といこうか。相手が負けを認めるか、相手の杖を落としたら勝負有り、でいいかな?」 「……勝負なんてシンプルなほうがいいわ。相手が負けを認めたら、だけにしましょう」 「オーケイ。ならそれでいい。ではもう覚悟はできてるかい?」 「ええ。準備はできてるわ」 そんな言葉を交わして、決闘の幕は上がった。 だが、両者動かない。睨み合いが続いている。野次馬たちは、いつ動くのかと固唾をのんで見守っている。 「動かないわね」 キュルケが小声で呟いた。 「……おそらく既に動いている」 タバサがさらに小さな声で言う。 その言葉の意味を理解できず首を傾げるキュルケ。 タバサだけが感じ取っていた。実践を積むことでしか身につかない感覚でもって。 ルイズはもう動いている。 ルイズが何をしているのかは解らない。だが、何かしているのは間違いない。 事態は既に動いている。決着へ向けて。 ギーシュは焦れていた。 先程交わした会話は、間違いなく決闘の開始を合図するものだった。 それなのにルイズが動かない。 端からルイズに先手を譲るつもりであった。 ルイズを派手に痛めつけるわけにはいかない以上、如何に実力差を見せ付けるかこそが肝要なのだ。そして勝負は格下から動くものだ。 だからルイズが杖を向けルーンを唱えようとしてからワルキューレを動かす。そしてルイズから杖を奪い、地面に押さえつける。痛めつけられない分、ルイズには土でも食わせてやろう。 だが、ルイズが動かない。 ならばそんな筋書きに拘らず、とっととワルキューレを動かしてしまおうか。 いや、それもできない。 野次馬たちは、今の状況を緊迫した睨み合いとでも思っているのかもしれないが、ギーシュはただ待たされているだけなのだ。動きようのない状況で待たされている。 ルイズは杖を向けるどころか杖を構えてもいない。それどころか、その手にはまだ何も握られていないのだ。 流石に杖を持ってもいない相手に攻撃を仕掛けることはできない。それでは卑怯者の謗りを受けかねない。 (早く杖を構えろ。それとも臆したか) そんなギーシュの思いとは裏腹に、ルイズは相変わらず杖を持とうとすらしない。 やはり臆したのか。 覚悟ができたなどとは口だけだったか。 (ん? ルイズの奴、何と言っていた? 『覚悟はできたか』と聞かれて、何と答えた? 『準備はできていてる』と答えなかったか?) ギーシュはふと先程のルイズの言葉を思い出す。 『準備』。闘う為の準備なら、まず杖を持たねば始まらないだろう。 魔法の使えぬルイズが肉弾戦を仕掛けてくる可能性も考えられる。そうだとしても、武器も持たず構えもせず、何の準備をしたというのだ? なんだか…… 足がむずむずしてきた。 「!?」 ギーシュの右脚に突然激痛が走る。 「な、なんだ!?」 突然そんなことを言い出したギーシュに、野次馬たちの注目が集まる。 ギーシュは杖をルイズに向け牽制したまま、己の脚へと注意をやる。 痛い。 痒い。痛い。 熱い。 「な、なんなんだ!?」 ついにギーシュは堪えきれず、ズボンを捲り上げる。 するとそこにはどくどくと流れる血で赤く染まった右脚があった。そしてその赤の中に点在する黒い点。 ギーシュは己の目を疑った。 そこにいたのは己の小指ほどもあろうかという巨大な蟻。 その蟻が2匹、3、いや4匹。ギーシュの右脚に食いついていた。 「うわあぁぁああああ!?」 ギーシュが叫ぶ。叫びながら己の脚をバシバシと叩く。 ギーシュの赤く染まった脚に気づいた野次馬たちも騒然となる。 「なんだこれ!? なんなんだこれぇ!?」 ギーシュは血で染まった己の脚、そして見たこともないような巨大な蟻に混乱していた。 蟻が全て潰されても、己の脚から目が離せない。答えるものなどいないのに「なんだなんだ」と問い続ける。 しかし混乱はいきなり現実に引き戻される。 突如爆発音がしたのだ。 爆発、即ちルイズ。 ギーシュは己がルイズのことをすっかり忘れて取り乱していたのだということに気づく。己の脚に向けていた視線を上げる。 ギーシュの視界にまず映ったのは、爆発四散するワルキューレ。 (ルイズにやられた? なら……) ギーシュは己の手を見る。その手には薔薇を模した杖が握られている。 杖が握られている。それを目で確認するまで己が杖を握ってるのかどうかすら判らなくなっていた。 (杖はある。ワルキューレを……) 作らなければ。 そんなギーシュの思考はすぐに潰える。 ギーシュの視界にルイズがあらわれたのだ。 ルイズは走っていた。ものすごい勢いでギーシュの元へ。 (ルイズの前にワルキューレを……) (立ち塞がなければ……) ギーシュは急いで杖を構える。 (間に合うのか!?) 間に合わない。 ルイズとギーシュが激突した。 前ページ次ページ虚無の魔術師と黒蟻の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8324.html
いつも通りの春の使い魔召喚の儀式 いつも通り失敗しまくるルイズ いつも通りお禿げに懇願し最後の一回で爆発を起こすと これまたいつも通り人間を召還する 「私はルイズ、あなたの主人となるメイジよ」 「私はミリルゥ・クリスローズ・斬魅麗(ザミレス)封印王国ミスティエクスの姫……だといわれているわ 年齢は14歳半w」 自己紹介の時にだと言われているってどういうことよ?思わず困惑するルイズ そう彼女が召還したのは厨二キャラだったのだ そんな厨二キャラと様々な困難を乗り越えてついにジョセフと最終決戦 ジョセフの傍らには見慣れぬ奇妙な武器を持った少年がいた 「あれは水神 狩(カル ミカミ)!?」 「知っているの?ミリルゥ!」 ルイズの問いかけに応えるミリルゥ その顔と声からはかつてない焦りが感じられた 「ええ…リズムニシス(ダンスの動きを取り入れた体術)を駆使する凄腕の神喰らいよ…」 「フッ…久しぶりだなミリルゥ ちなみに特技はHIPHOPと読書(ただしラテン語の文献のみ)静寂に浸ることだ」 厨二キャラの同士の対話に頭を押さえるルイズとジョセフ、読書と静寂に浸ることは特技で無くてただの趣味だろうに そんな主人たちの苦悩を黙殺して使い魔同士の会話は続く 「まさか貴方がこんな外道の下につくなんてね…まぁ貴方にとっては全て遊びかも知れないけど」 「よく判っているなミリルゥ…このまま俺の前に立ちはだかるのならばお前はここで9999921」 「だったら最初から本気で行くわよ!!唸れ!ガルナグラ・焔・ツヴァイ!!」 ミリルゥの持つ大剣が蒼い焔に包まれる 「竜皇バハムートの全ての力を封印した我が大剣の最終アーツ!!受けなさい!ザイド・フレアァァアア!!」 ベルサルテイル宮殿ごと焼き尽くす勢いで放たれた蒼い焔は暴力的な破壊力で全てを覆い尽くす 「……あんたねぇ、私まで死にかけたでしょ!!」 「最終敵をも10秒で戦滅する私の最終奥義…生き残れるものは何もないわ」 ルイズの抗議をガン無視するミリルゥ だがしかし! 「9999921 9999921」 そこにはカル ミカミの姿が!! 目は赤く輝き、野獣の様な牙が生え全身から凶暴なオーラが沸き立っている その様は先ほどまでとはまるで別人だ 「『ギア・スイッチング現象』…奴の中の『ネクスト』が遂に目覚めたか」 ルイズたちの後方、都合良い高台にカッコつけて現れたのは明らかに人間とは違う男性 「お前は滅びた筈の禁断の種『ゼレス』!!なぜこんな所に!!」 「フン、今となっては俺もロマリア教皇の飼い犬よ しかし自然の『乱』を感じてな!!」 「来い『LA ADAM』奴らを9999921」 虚空からもう一つの武器を取りだすカル ミカミ その身体からは異常なまでの『力』が迸っていた 「行くぞ!ミスティエクスの姫よ!氏角を作るな!背中を合わせろ!」 「そっちこそ、せいぜい足手まといにならないでよね!!」 ミリルゥとルイズの勝利を信じて!御愛読ありがとうございました! 携帯ゲーム板 LoAスレのテンプレよりミリルゥ・ゼレス・水神 狩を召喚
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3027.html
前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形 何故魔法が使いたかったのだろうか。 ルイズは一人悩んでいた。 皆に認められたかった。 家族に…母や姉に褒めてもらいたかった。 でもそれだけ。わたしにとっての魔法はそれだけの価値しかないのだろうか。 わからない……。 子供のころは良かった。何も考えずに無邪気でいられたから……。 もし叶うなら子供のときのように……大切なあの人に会いたい。 「ルイズさん。どうかしましたか?」 ルイズが一人物思いに耽っているとアンジェリカが心配して声をかけてきた。 「何でもないわ」 精一杯の作り笑顔を浮かべてアンジェリカに言葉を返した。 「ねえ、アンジェ」 「はい?」 「アンジェはこれから何かしたいことある?」 「これからもルイズさんのお役に立ちたいです!」 アンジェリカは質問に満面の笑みを浮かべて答えた。 だがルイズは少し困ったような顔を見せたのだ。 「あのね、そういうことを聞いてるんじゃないの……」 ちょうどその時扉を叩く音がした。長く二回、短く三回。聞き覚えのある子供じみた暗号。 急いでドアを開け、そこにいるであろう人を招き入れる。 黒い頭巾をかぶった少女が部屋に滑り込み、杖を振るった。 呟かれたルーンの声の主に心当たりはある。 「姫殿下!」 ルイズの言葉に促されるかのように頭巾取り、その手を取った。 「久しぶりね。ルイズ」 その顔を見たルイズは膝をつく。 「どうしてこのようなところに…」 「わたくしたちお友達でしょう? 友達に会うのに理由は要らないわ」 アンリエッタはルイズを立たせると抱きついた。 「アンリエッタ姫殿下…」 「やめて! ここには枢機卿も宮廷貴族もいないのよ。昔のように呼んでちょうだい…」 感慨に咽ぶルイズが姫殿下と口を開いた瞬間、急速にアンリエッタの表情が曇る。 「で、でも…」 尚を渋るルイズに今度は少し悲しそうな声をアンリエッタは出した。 「幼いころ、泥だらけになって遊んだのに…。あなたはそれを忘れたの?」 「ひ、姫様」 「ルイズ!」 悲しそうな顔を見せるアンリエッタ。それをアンジェリカはあっけに取られながら見ていた。 「ヘンリエッタ?」 「違うわ。アンリエッタ姫殿下よ」 アンジェリカの呟きを聞いたルイズは訂正する。 「ルイズ、その子は?」 「この子はわたしの使い魔です。アンジェ、挨拶なさい」 ルイズに促され、笑みを浮かべてアンリエッタに挨拶をした。 「アンリエッタちゃん、はじめまして。アンジェリカです」 「アンジェ! 失礼よ!」 ルイズは初対面で、しかも姫様にいきなりちゃん付けするアンジェリカを叱る。 「姫様?」 「ルイズ…二人っきりの時はエッタと呼んでって何回も言ってるでしょ?」 どこか諦め、悲痛な面持ちで小さく息を吐いた。 「アンジェ、少し二人っきりでお話したいから、少しの間席を外してくれない?」 「わかりました」 アンジェリカはまたねとアンリエッタに手を振って部屋を出て行った。 それを見届けたルイズは小さく呟いた。 「……エッタ…」 小さな呟きだったがアンリエッタはそれを聞き逃さない。 先ほどとは打って変わり満面の笑みを浮かべて…その目元には小さな雫をためて……。 「まぁルイズ! 覚えていてくれたのね!わたくしたちがアミアンの包囲戦と呼んでいるアレを!」 「もちろんです! あの時は…」 Zero ed una bambola ゼロと人形 そうそれはまだ二人が幼かったころの話。 身分の上下などさほど気にもせず楽しく過ごしていた大切な思い出。 「ねぇ、ひめさま」 「なぁに?」 今日もアンリエッタの元へ母と姉に連れられ遊びに来たルイズ。その手の後ろに何かを隠しているよう だったが、小さな体には隠れきるはずもなく、アンリエッタにすぐに見つかってしまった。 「あー! ルイズそれなに!」 ニコニコと笑いながらアンリエッタの前に、隠していたドレスを自慢げに掲げた。 「すごーい。それどうしたの?」 「ちぃねえさまのおへやからとってきたの。きれいでしょー」 「うん。きれいだねー」 二人でしばらくドレスを眺めたり触ったりしていたがアンリエッタがふと疑問に思ったことを口にした。 「ルイズ、きょうはこれであそぶの?」 「そーだよ。きゅうていごっこしてあそびましょ」 「きゅうていごっこ?」 首をかしげるアンリエッタに、ルイズは小さな胸を張って答える。 「おひめさまとじじょのやくにわかれるのよ!」 ルイズがそういうとアンリエッタはドレスを掴んだ。 「わたくしがおひめさまのやくやるー!」 ルイズも負けじとドレスを引っ張る。 「だめよ。わたしがやるのー!」 ふたりはドレスを引っ張り合い、裾が伸びはじめ、ビリッと布が裂ける音がした。 「いつもルイズばっかりずるいー」 アンリエッタの言葉を皮切りに取っ組み合いに発展した二人の小さな争い。 「わたしー!」 「わたくしなのー!」 アンリエッタが放った一撃が偶然ルイズのお腹にいい具合に入った。 「ひでぶぅ」 そんな声とともにルイズは部屋の絨毯に沈んだ。 「きょうはわたくしがかちましたわ!」 アンリエッタは床に倒れたルイズを気にもせず、嬉しそうにブカブカのドレスを着た。 「さぁルイズ。きょうはわたくしがおひめさまのやくよ!あなたはじじょよ」 ルイズは苦しそうにお腹を押さえて顔を上げた。 「ひぐ、うぇーん」 大粒の涙を流しながら泣き出した。アンリエッタは慌ててしまう。今まで一度だってルイズを泣かしたことなどなかったのだ。 「あうう、ルイズ泣かないでよ」 アンリエッタは泣き出すルイズにどうすればよいのかわからず、おろおろと右往左往するしかなかった。 「泣かないでよルイズ。うぅ…」 泣き喚くルイズにつられてアンリエッタまで涙を浮かび始める始末。 唐突に何か思いついたアンリエッタが涙を拭って話しかけた。 「ルイズ、なきやんだらわたくしをエッタってあだなでよんでもいいわよ」 さも名案だと言わんばかりに、自信たっぷりに言うアンリエッタ。 ルイズは涙を拭いながらも口を開いた。 「ぐす、エッタ?」 「そうよ。わたくしたちはしんゆうなんですからね! エッタってよばないとぜっこうよ!」 「ぜっこうはいや!」 泣き止んだルイズが立ち上がって怒鳴るが、アンリエッタはやさしく答えた。 「ぜっこうがいやならエッタってよんで」 「でもエッタってよんだら、かあさまとかにおこられるかも…」 不安そうな顔を見せるルイズにアンリエッタはしばし考え込む。 「じゃあ、ふたりっきりのときにはエッタってよんで! それならいいでしょ?」 「うん! いいよ!」 泣いた子がもう笑った。二人は楽しそうにはしゃぎまわる。 「つぎはるいずのばんね」 そいうとアンリエッタはドレスを脱ぎ、ルイズに渡した。 「エッタ、いいの?」 「うん、いいの」 「ありがとー」 ルイズは受け取ったドレスを嬉しそうに着た。 楽しい時間、だがそれも長くは続かない。 誰かがノックをして部屋に入ってきたのだ。 「ち、ちぃねえさま…」 ルイズは一歩後ずさる。 「あらあらあら? ルイズ可愛いドレス着ているわね。どうしたのかな?かな?」 笑顔を浮かべているが怖い。アンリエッタは動けずにいた。 「あの、ち、ちぃねえさま? ちょっとかりただけ…」 必死に弁明するも聞き入れられるはずがない。 カトレアは問答無用とルイズの襟首を掴んで部屋を後にしようとする。 「え、エッタ。たすけ…」 「まぁ失礼でしょう? ちゃんと姫様と呼びなさい」 ルイズにいけませんと叱るカトレア。部屋を出る間際、アンリエッタに向かってにっこり微笑んだ。 「それでは姫様失礼します」 『ルイズ…ごめんなさい』 去り行くルイズを為す術もなく見送るしかなかったアンリエッタは心の中で謝った。 これがのちに、二人が『アミアンの包囲戦』と名付けた出来事である。 この日以来、ルイズが姫様と呼んでもアンリエッタは返事をしなくなったのだ。 幼き日の忘れられない、ほんの小さな出来事である。 Episodio 31 Una guerra di assedio di Amiens アミアンの包囲戦 Intermissione 月が大地を照らす光を頼りにロングビルは怪我をおして、一人夜道を駆けていた。目的地はアルビオンのウエスト・ウッド。道のりは長い。 強行軍と分かっていながらも馬を走らせていた。 テファニアが心配で早く会いたいという思いも確かにある。しかし急いだからといって、目的地へ早く着く訳ではない。アルビオンへ船が出る日は決まっている。どんなに急いでもラ・シェールで足止めされるのが目に見えている。急いでも余り意味が無いのだ。 ならば何故こうも急ぐのか。急がなければ危ない。学院から離れなければならない、直感的にそう感じたからだ。 今まで何度もその直感に従い行動してきた。それによって何度か危機を脱したこともある。 今回も当然直感に従った。それがこの状況。痛みを押し殺し馬を走らせている。じりじりと体力が消耗されるが速度は緩めずに走り続けた。 果たしてこの行動が吉と出るか凶と出るか……何事も無いようにと願わざるを得ない。 唐突にロングビルは今まで緩めることのなかった馬の速度を落とし、辺りを窺い始めた。 静か過ぎる。いくら深夜といえども虫の声の一つもしない。 草原に、辺りの生物を全て殺しつくさんとも言わんばかりの冷たい空気が流れ込む。 風が音もなく吹き曝し、雲は月を覆い隠す。 その時、何を思ったのかロングビルは馬から飛び降りた。 飛び降りたというのは語弊がある、ロングビルは無様に背中から地面に、彼女の意思で落ちたのだ。 別段気が狂ったわけでもない。風の刃が真正面から襲い掛かり、馬の首ごとなぎ払う。 風の刃が通り過ぎた後には、首のない馬が切り口から血を噴出し、どす黒い水溜りを作った。 地面から身を起こしたロングビルは未だに立ち尽くす首のない馬を引きずり倒し、無理やり遮蔽物を作りだすと、前方を睨む。 淡い月の光は雲を突き抜けることなど叶わず、僅かに人影が確認できるだけだった。 条件は同じ、いや相手は月明かりが無い中、正確に攻撃してきた。そして襲い掛かった悪意は紛れも無い魔法、つまり敵はメイジだ。 こちらの位置はすでにばれている言っても過言ではないだろう。 それに対してこちらは戦う前から手負い。条件が悪い。黙っていてもメリットが無い。そう判断したロングビルはようやく口を開いた。 呼びかけに応答せずに攻撃するか……それとも何かしら答えて正体が分かれば御の字。 「誰なの!」 大声を出すと折れた腕が痛む。その痛みをこらえて前方を凝視する。敵は……一人? 一陣の風が吹き、雲を動かす。淡い月の光が緩やかに大地を照らす。 次第にはっきりとしていくシルエット、ロングビルの行く手を遮るのは年若い女性……。 「こんばんは、こんな夜更けにどこに行くのかしら? ミス・ロングビル。いえ、土くれのフーケさん?」 ルイズの姉、エレオノールその人だった……。 前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2440.html
そんなこんなで教室にやってきたルイズと暁。 二人が入ると生徒達の視線が一斉に集まる。 バカにしたような目で見られ、笑い声が聞こえてくる。 ルイズはそれらを無視して席に着く。 キュルケ一人だけは暁に手を振ってくる。 暁はそれに答え、にやけ顔で手を振り返す。 それを見たルイズは無言のまま暁の足を踏みつけた。 悶絶する暁にルイズは 「アンタは座っちゃダメ」 と一言だけ告げ、すぐに前を向く。 本来なら抗議のひとつでもしたいところだがルイズがとても怖いので仕方なく教室の後ろに行く。 しばらくすると教室に優しそうな中年女性が入ってきた。 教師のミセス・シュヴルーズである。 「みなさん、春の使い魔召喚の儀式は成功のようですね。」 シュヴルーズはそう言いながら使い魔たちを見回す。 すると教室の後ろの暁に目が止まる。 「おやミス・ヴァリエール、ずいぶん変わった使い魔を呼び出したようですね」 その言葉に教室が笑い声に包まれる。 暁は自分を人気者だと勘違いしたのか、頭をかきながら笑顔でみんなに愛想を振りまく。 それを見たルイズは顔が真っ赤になるのを自覚した。 あのバカ、また調子に乗って! 昼食も抜きにしてやろうかしら。 そんな暁へのお仕置きを考えていると 「それでは授業を始めます」 シュヴルーズの声でルイズは考えるのをやめ、授業に集中した。 授業の内容は魔法の基礎知識だ。 火、水、土、風の四大要素や失われた虚無のことなど わかりやすく説明している。 そんな授業を聞きつつ暁は寝ていた。 壁にもたれ、座り込みながら熟睡している。 最初は魔法の授業なんておもしろそうだと好奇心に満ちた暁だったが 開始5秒で夢の世界に入ってしまった。のび太君並である。 ふと自分の使い魔の方を見たルイズは慌てて起こそうとする。 「アンタなに寝てんのよ、起きなさい」 シュヴルーズに聞こえないように、なるべく小さな声で暁に呼びかけた。 が、そんなもので暁は起きるはずも無く 「長官ー!」 「誰に物を言っている」 だのよくわからない寝言をぼやいている。 「ミス・ヴァリエール!後ろを向いて何をブツブツ言っているのです!」 「す、すみません…」 シュヴルーズに注意され、教室のみんなに笑われたルイズは暁へ怒りを向ける。 絶対後でお仕置きしてやるんだから! しかしシュヴルーズはさらに言葉を続ける。 「それではこの錬金はミス・ヴァリエール、貴方にやってもらいましょうか」 笑い声に包まれていた教室は水を打ったように静かになり、生徒たちの顔色が青くなる。 「あのー、ルイズはやめたほうがいいと思います」 一人の生徒が提案するがシュヴルーズは却下する。 「何を言っているのですか。さ、ミス・ヴァリエール、気にせずやってみましょう」 「は、はい」 力なく返事をするルイズ。 生徒たちは半ば諦めて机の下に隠れ、その使い魔も物陰に身を隠す。 居眠りをしてる暁を除いて。 女は度胸。 こうなったら一か八かよ! ルイズは決意を固めて杖を振るう。 その瞬間ゼロのルイズの代名詞ともいえる爆発が起こった。 「なんだぁ!」 突然の爆発音に暁は目を覚ます。 周りは舞い上がった埃でよく見えない。 「一体何が…」 その後の台詞を暁は喋ることができなかった。 爆発で飛び散った破片の一つが暁の頭に直撃したのだ。 「ギャー!」 暁は叫び声を上げつつ本日二度目の居眠りに入った。 大破した教室にはルイズと暁の二人だけだった。 授業は中止になり、罰として後片付けをしている。 「何で俺まで掃除しなきゃなんないワケ?俺のせいじゃないじゃん」 痛い頭を擦りつつ暁は不満を口にして瓦礫を片付けている。 「うるさいわね、使い魔なんだから手伝いなさいよ」 ルイズは机を拭きながら暁に答える。 「魔法失敗したんだって?キュルケちゃんから聞いたよ」 どうやら暁にはバレていたようだ。 もう隠してもしょうがないだろう、ルイズは認めた。 「そうよ、おかしい?魔法も使えない貴族なんて」 暁の性格からしてからかったりするのだろう、そうルイズは予想したが 「ん?別に。誰でも失敗はするでしょ」 意外にもバカにしたような答えは返ってこなかった。 しかしルイズは落ち込んでいる。 暁は失敗をたまたまと思っているかもしれないからだ。 ルイズはすべてを話す。 「違うわ、私はいままで魔法の成功は一度も無いの。魔法の成功ゼロだから ついたあだ名がゼロのルイズ。だからいつもみんなにバカにされて…」 自分で言っていて悲しくなってきた。 こいつも私のことを軽蔑するのかな そんなことを考えていた。 「気にすんなって、そんなこと。いつか使えるようになるさ」 暁はルイズをバカにしたりはしなかった。 女の子が落ち込んでいたら必ず励ます。そんなの暁にとっては基本だ。 しかし今のルイズにそんな言葉は効果が無い。 「いつかっていつよ!気休めはやめて!私だっていつかは使えると思ってた。 勉強もいっぱいしたし、魔法だっていっぱい唱えたわ。でも出来ないのよ! 魔法が使えない貴族なんて何の意味があるの?お姉さまたちもクラスメイトもみんな使えるのにどうして私だけ。 それにアンタみたいなただの平民を…」 自分に対する苛立ち、不満を一気に吐き出したルイズは肩で息をするほど興奮している。 そんなルイズの傍に暁は寄る。 そして同じ目線まで腰を落とし語りかける。 「だからさ、焦ることないって。今まで頑張ってきたんだろ。もうちょっとのんびりいこうよ。」 「のんびりなんて出来ないわ」 ルイズはまだ沈んだままだ。 バカにされたくないのもあるが貴族としての自分のプライドもある。 暁はうーんと唸って、ルイズに提案した。 「じゃあさ、こう考えない?明日は使えるかもしれないって」 「明日?」 「そ。それなら毎日が楽しみになるじゃん。一度しかない人生なんだからさ、気楽にいこうよ。ふんわかふんわか、ね」 「何よ、ふんわかって」 聞き慣れない変な言葉にルイズは少し表情が緩む。 その瞬間を見逃さず暁は続ける。 「それとさ、魔法使えるようになったら俺に一番に見せてよ」 「アンタに?」 「うん、俺使い魔なんだから当然の権利でしょ。でもルイズの初めての魔法ってどんなのかな。 石をバナナパフェに変えるとかだったらいいよなー」 「そんな変な魔法あるわけないでしょ!」 暁にすかさずツッコミを入れるルイズにはちょっとだけ笑顔が浮かんでいた。 やっぱ女の子には笑顔が一番だな その後、ルイズと暁は初めての魔法をあーでもないこーでもないと言い合いながら掃除を済ませ 昼食に向かうのだった 「そういえばアキラ、朝食のときドコに行ってたのよ?」 「あ…あー、まあそれはいいじゃないの。ね」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2102.html
前ページゼロの答え 深夜の中庭。二つの月が照らす中、デュフォーとそれを見つめるルイズとキュルケ、そして自らの使い魔に乗って上からそれを見るタバサの姿がそこにあった。 あの後、中庭に出たところキュルケとタバサも来て何をしているのかルイズに追求してきた。 そしてとうとう根負けしたルイズが事情を話し、キュルケとタバサは半ば押しかけ気味に見届け人として参加すると言ってきたのだ。 デュフォーは我関せずと他人事のようにそれを静観していた。 最初はまったく興味なさそうだったタバサだったが、"ガンダールヴ"という言葉を聞くと積極的に参加の意を示してきた。 「あそこの壁を傷つければいいんだな」 そういうとデュフォーは本塔の壁を指差した。 「ええ、そうよ。あんたが本当に"ガンダールヴ"ならそのくらい楽勝でしょ?」 腕組みをしてルイズが答える。 本塔の壁にどれだけの傷を付けられるか?それがルイズたちの出したデュフォーが本当に"ガンダールヴ"なのかどうかを知るためのテストであった。 本塔の壁は非常に頑丈にできている。その上、指定した場所は地面からかなりの高さである。 普通の人間ならとてもではないが手出しできないような位置を指定していた。 仮に本当に"ガンダールヴ"だとしても地面からそれだけ高さのある場所なら、多少の傷しかつけられないとはタバサの弁であった。 タバサがウィンドドラゴンに乗っているのは、指定した場所が場所であるので、宙に浮いて見ないと正しく判別できないだろうとのことからである。 デュフォーはルイズたちの指定した場所の後ろが宝物庫だと知っていたが何も言わなかった。 どうでもいいことだからである。 ルイズが合図をすると同時に、デュフォーの左手のルーンが光り輝いた。 そしてデルフを持って振りかぶり、投げる。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「「「「「えっ!?」」」」」 デルフから伸びる悲鳴と、五つの驚きの声が夜の中庭に響いた。 ルイズたち三人以外の声の内、一つは植え込みの中、もう一つはタバサの方から聞こえたのだが、叫んだ当人たちは誰もそのことに気が付かなかった。 そしてデュフォーはそのことに気づいてはいたものの、最初からそこに人がいたり、タバサの使い魔は風韻竜で喋れるということを知っていたので特に反応はしない。 (タバサは自分の使い魔が喋ったことには気が付いていたので、杖で軽く頭を叩いた) 悲鳴をなびかせながら、デルフは見事に根元まで、本塔の壁に突き刺さった。 ルイズたちが指定した場所に寸分の狂いも無く埋まっている。 「これでいいんだろ?」 ごくり、とその場にいた全員が息を呑んだ。 一瞬間を空けて、フーケは我に返るとすぐさま詠唱を始めた。目の前で起きた光景は信じられないが、チャンスであることには違いは無い。 長い詠唱であったが、その場にいたデュフォー除く全員が壁に突き刺さった剣に目を奪われていたので完成まで誰にも邪魔をされることは無かった。 デュフォーは別にどうでもいいといった感じでフーケを邪魔することも無く、ルイズたちが剣を見るのを眺めていた。 巨大なゴーレムが現れるとデュフォーはとりあえず近くにいるキュルケとルイズの肩を叩いた。 「「きゃっ!?」」 突然の刺激に驚いたのか二人が身を竦める。 「な、何するのよ!」 「ダーリンったら。触りたいなら前もって言ってくれれば」 まるで別々のことを言ってくる二人だったが、二人とも同じようにデュフォーに無視された。 あれを見ろ、デュフォーはそう言ってルイズたちの後ろを指差すと小石を拾ってタバサに軽く投げる。 こつんと頭に当たり、惚けたような表情で剣を見ていたタバサが我に返る。 そして石が飛んできた方向を見て、固まった。ルイズとキュルケも同様にデュフォーが指差した方向を見て固まっていた。 土でできた巨大なゴーレムがそこに居た。 いち早く硬直が解けたキュルケが悲鳴を上げて逃げ出す。 タバサがウィンドドラゴンでキュルケを拾った。 ゴーレムはデュフォーたちのいる場所。本塔の方へと向かっているため、キュルケのようにその場を離れなければウィンドドラゴンで拾うことは難しい。 だがルイズは逃げようとしない。それどころかゴーレムに向けて呪文を唱える。 巨大な土ゴーレムの表面で爆発が起こる。"ファイヤーボール"を唱えようとして失敗していつもの爆発が起こったのだろう。 当然ゴーレムには通じない。表面がいくらか爆発でこぼれただけだ。 それから何度もルイズは呪文を唱えた。そのたびに爆発が起こる。だがゴーレムはびくともしない、爆発のたびに僅かに土がこぼれるが、それだけだ。 「逃げないのか?」 冷静な声で隣に居るデュフォーがルイズに訊ねた。 ゴーレムはもうすぐ近くまで来ている。 「いやよ!学院にあんなゴーレムで乗り込んでくる奴なのよ。そんな奴を捕まえれば、誰ももう、わたしをゼロのルイズだなんて……」 真剣な目でルイズが言いかけた言葉をデュフォーは遮った。 「お前、頭が悪いな。あいつを捕まえようがお前がゼロのルイズと呼ばれることに関係はないだろう」 息が詰まる。怒りで目の前が真っ赤になった。許せない。ただその言葉だけがルイズの頭の中に浮かんだ。 「ふふふふ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 その叫びに、ゴーレムも驚いたのか動きが止まる。 「ななな、なんでわたしがゴーレムを捕まえても関係ないってあんたにわかるのよ!」 怒りのあまり呂律の回らなくなった口調で叫び、ルイズがデュフォーに掴みかかる。 「お前がゼロと呼ばれているのは魔法が使えないからだろう?例えこいつを捕まえようがお前が魔法を使えないことに変わりはない」 まったく熱を感じさせない声でデュフォーがルイズに告げる。 「だから逃げろって?こいつを倒しても扱いは変わらないから。……はっ、冗談じゃないわ!」 ルイズは短く吐き捨てるとこう叫んだ。 「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!たとえゼロのルイズと呼ばれるのが変わらなくてもわたしは決して逃げないわ!」 再び動き始めたゴーレムがルイズを踏み潰そうと足を振り下ろした。 その足に対してルイズが杖を振る。爆発が起こり、土がこぼれた。まったく変わらないゴーレムの足がルイズへと迫る。 ルイズの視界がゴーレムの足で埋め尽くされる。そこで横から引っ張られた。 地面に投げ出され、尻餅をつく。横を見上げるとそこにデュフォーが立っていた。ギリギリのところでデュフォーが踏み潰される前にルイズを助けたのだ。 ゴーレムの方はルイズを踏み潰したと思ったのか、それとも興味をなくしたのかその場で止まった。 そして腕を引くと、本塔の壁。それも壁に突き立っているデルフを殴り飛ばした。当たる瞬間にフーケの魔法により、ゴーレムの拳が鉄に変わる。 デルフを楔として、本塔の壁に亀裂が走る。一瞬の沈黙の後、壁が崩れた。 ゴーレムの肩からフーケが降りると壁の中へと入っていく。壁の後ろにあるのは宝物庫。フーケの狙いはその中にある破壊の杖だった。 助けられたことで張り詰めていた糸が切れたのか、ゴーレムが壁を破壊していくのを見上げながら、ルイズの目から涙がこぼれた。 自分の力が通じない悔しさにルイズは泣きながら拳を握りしめる。 そんなルイズに対してデュフォーが声をかけた。 「お前、頭が悪いな。逃げないのは構わないが無駄なことをして何がやりたいんだ?」 思いやりのまったくない言葉に更に涙が溢れる。 「だって、悔しくて……わたし……いっつも馬鹿にされて……だから見返したくて……」 嗚咽で途切れ途切れに言葉を紡ぐルイズ。 そんなルイズをデュフォーは一刀両断で切り捨てる。 「お前は本当に頭が悪いな。見返したいのなら、何故無駄なことをする?」 ナイフのようにデュフォーの言葉はルイズを切りつける。 泣きながらルイズはそれに反論した。 「わかってる……わかってるわよ、わたしじゃどうしようもないことくらい……でも、じゃあどうしろってのよ!」 その言葉に対する返事はすぐにデュフォーから返ってきた。 「オレが指示を出す」 ルイズは顔を上げた。 今聞いた言葉が信じられなかったからだ。 「どうやったらあいつを倒せるのか?その『答え』が欲しいんだろ?」 普段と変わらない冷静な表情でデュフォーはルイズにそう告げた。 「―――え?」 目に涙を浮かべたまま、告げられた言葉の真偽を確かめるかのようにルイズはデュフォーを見つめる。 いつもと変わらない表情。嘘でも慰めでもなく、ただ単純に事実のみを伝えたという様子でデュフォーはルイズを見ていた。 「……本当に、あいつを倒せるの?」 おずおずとルイズがデュフォーにそう訊ねた。 まるで目の前の希望に縋り付いて裏切られるのが怖いという様子でデュフォーの提案に乗ることを躊躇している。 だがそれもデュフォーが口を開くまでだった。 「お前、頭が悪いな。『答え』が出せるから、『指示する』と言ったんだ」 ビキッという音があたかも実際にしたかのような勢いでルイズの顔に青筋が浮かぶ。 同時にデュフォーの提案に対して躊躇させていた気持ちは跡形も無く吹き飛んだ。 「やるわよっ!やってやるわ!」 それを聞くとデュフォーはルイズに向けてこんなことを言った。 「そうか。だったら今から奴を追う。そして術者に対して直接"ファイヤーボール"を唱えろ」 あまりといえばあまりに突飛な提案にルイズの目が丸くなる。 「ちょっ、ちょっとデュフォー!何で"ファイヤーボール"であのゴーレムが倒せるのよ?防がれて終わりでしょ!」 「何を言っている?お前が魔法を使えば爆発が起きるだろう。それでゴーレムを操っている術者を直接倒せばいいだけだ」 「んなっ!ははははは、初めからわたしが魔法を失敗することが決まってるみたいに言わないでよ!ひょっとしたら成功するかもしれないじゃない!」 しかしデュフォーはルイズの怒声を無視すると、ウィンドドラゴンに乗って上空を飛んでいるタバサへと声をかけた。 「何?」 タバサはデュフォーの近くまで来ると、自らの使い魔の上から降りて何の用なのか訊ねた。 ルイズが対して何やら騒いでいるのは互いに完全に無視している。 「今からあのゴーレムを倒しに行く、だからその風韻竜で後を追ってくれ」 告げられたゴーレムを倒すという言葉よりも、風韻竜という言葉に驚いてタバサは息を呑んだ。 そしてデュフォーに対して警戒の目を向ける。だがデュフォーはこちらもあっさり無視してまだ騒いでいるルイズに向き直った。 その様子にタバサはこの場でそのことについて言及することを諦めた。 幸いなことに今デュフォーが言った風韻竜という言葉を聞いていたのは恐らく自分しかいない。 キュルケは風韻竜の上にいるから、今の会話が聞こえていた可能性は低い。ルイズは騒いでいるからこれもまた今の言葉が聞こえていた可能性は低い。 だがこの場で下手に追求したら、近くにいるルイズと自らの使い魔の風韻竜―――シルフィードの上に乗っているキュルケにも聞かれるかもしれない。 そう判断するとタバサはシルフィードに戻った。 そして"レビテーション"でデュフォーたちをシルフィードの背に乗せる。 デュフォーたちが乗ったことを確認すると、指示通りゴーレムを追いかけ始めた。 「ねえタバサ、あなたさっきダーリンから何を言われたの?」 シルフィードでゴーレムを追い始めて間もなくして、キュルケはタバサにそんなことを訊ねた。 デュフォーとルイズはピリピリとした空気を発していて、とても声をかけられる雰囲気ではない。 正確にはルイズだけがそんな空気を発しているのだが、デュフォーは平然とした顔でその近くにいるため同様に声をかけられる雰囲気ではなくなっている。 そのため親友であり、今のところ何もしていないタバサに聞くことにしたのだ。 「今からゴーレムを倒すって」 タバサはそれに対して短く答える。 「あ、それで私たちにも手伝うようにってことかしら?でもあんなゴーレム相手にどうやって?」 その返答に対しキュルケが訝しげな表情を顔に浮かべた。 当然だろう、あんなゴーレムをどうやったら倒せるというのだ。 「違う。今からあのゴーレムを操っている術者を吹き飛ばすから、そうしたら捕まえろって言われた」 その言葉に対してキュルケは息を呑む。 「ちょっ、ちょっと本気!?どうやったらそんなことができるのよ。ここから魔法を撃ってもあのゴーレムが防いで終わりに決まっているじゃない!」 タバサは叫ぶキュルケに眉根を寄せた。 「わからない。でも……」 そう言うとタバサは首を後ろに向けてデュフォーたちを見る。 「彼はできないなんて微塵も思っていない」 ゴーレムと風韻竜では速度において圧倒的に差がある。 そのためフーケのゴーレムに追いつくまでにはさほど時間はかからない。 丁度城壁を越えたところで追いつき、その上空を旋回する。 それを確認するとデュフォーは隣にいるルイズに声をかけた。 「ルイズ。あそこだ」 その指の先にはフーケの姿があった。 「そろそろ詠唱を始めろ。このままの位置を保ち、奴を吹き飛ばす」 その言葉にルイズが息を呑んだ。 そして意識を集中し、呪文を唱え始める―――が数秒もしないうちに詠唱は尻すぼみになり、途中で消えた。 「……やっぱり、無理よ」 消えてなくなりそうな声がルイズの口からこぼれた。 「何故だ?」 何を言ってるんだこいつは?という顔で聞き返すデュフォー。 「動いてる的に直接当てるなんて今までやったこと無いのよ!無理に決まってるわ!」 ヒステリックに叫ぶルイズ。 それに対してデュフォーは呆れたような顔をしてルイズに向けて言った。 「オレが言ったことはお前ができる範囲のことでしかない。不可能だというのなら、それはお前自身に問題がある」 ルイズは歯を食い締めた。自分に問題がある?そんなことは最初からわかっている。 「今更なに言ってるのよ!わたしに問題があるなんて最初からわかってるでしょ!」 その言葉にデュフォーはますます呆れたような表情になった。 「お前、頭が悪いな。オレが言っていることを理解できていない」 ルイズは顔を上げるとデュフォーを睨みつけ、そして叫んだ。 「なにが理解できてないっていうのよ!あんたなんかにわたしのことはわからないわ!」 その叫びを受けてもデュフォーは微動だにしなかった。何の感情も浮かび上がっていない瞳で睨みつけるルイズを見返す。先に目を逸らしたのはルイズだった。 デュフォーはそんなルイズに対して追い討ちのように言葉を投げつける。 「オレはお前の能力を理解した上で、できると言っている。できないと思い込むのはお前の自由だ。だがそれはお前自身ができないと思い込むことで、自分の能力を下げているからだ」 それはまったく温かみを感じさせない冷徹な言葉。 だがその言葉は不思議とルイズの中に染み渡る。 その言葉の重みは今ままでルイズが感じたことのある誰のものとも違った。 失望でも、期待でもない。ありのままの事実。ルイズに対してそれができて当たり前だからやれと要求するだけの言葉。 ルイズの胸の中で何かが溶けて消えた。代わりに熱いものが溢れる。 「もう一度聞く。あいつを倒すための『答え』が欲しいか?」 そして再び、デュフォーがルイズに訊ねた。 デュフォーの問いかけに対し、恐らくそれが最後の確認だとルイズは理解した。 ここで断ればきっとデュフォーはルイズにさせることを諦めるだろう。 だからルイズは答えた。今まで生きてきた中で培っていた勇気を全て振り絞り、ルイズはデュフォーに答える。 「……欲しい。わたしはあいつを倒すための『答え』が欲しい!」 気圧されることも無く、それを受けてデュフォーは一度頷いた。 聞き返しはしない。デュフォーからしてみれば最初からできるとわかっていたことに何故悩んでいたのかと不思議に思うだけだ。 だから後は互いにやるべきことをやるだけでしかない。 短くデュフォーが合図をする。 「今だ。詠唱を始めろ」 軽く頷き、ルイズはゴーレムの肩にいるフーケを見つめると深呼吸をした。 息を吸い、吐く。 呼吸を落ち着かせ、標的を見つめる。 さっきまで荒れ狂っていた心臓が、今は静かに鼓動を奏でているのがわかる。 自分と標的。世界に存在するのはその二つだけ。 集中する。一度限りの大博打。外せば次のチャンスはないと警告はされた。 詠唱を始める。かつてないほど集中しているのが自分でもわかる。外す気なんて欠片もしない。さっきまであれほど不安だったことが嘘みたいに感じる。 悔しいがあの使い魔の言っていることは全て正しいのだろう。 思いやりとかそういうものはまるでないが、それだけに事実が痛いほど突き刺さる。 だけどそのおかげでわかったことがある。 ただ悔しく思うだけじゃ何も変わらない。悔しいからって無謀なことをしても何も意味が無い。 そして劣等感から自分の能力を低く評価したら、ますます駄目になるだけだ。 まず自分にできることをしっかりと見つめる。その上で、できることをやる。 そうでなければ前には進まない。 たぶん今までの自分は無いものねだりをしていただけの子供だったのだろう。 そんな自分に対してできると断言したデュフォー。 信頼とか暖かい気持ちなんて微塵も感じない。ただ事実を告げただけという感じの言葉。 だけどそれだけに―――信じられる。 純粋に自分の能力を評価してくれているとわかるから。 思いやりや盲信からの過大評価も、蔑みからの過小評価もしない、ありのままの自分の能力を見てくれてると信じられるから。 だからわたしはあいつの言うことを信じる。 ありのままのわたしを見てくれる人間として、あいつを信じる。 ―――だからこれは絶対に成功する。失敗なんてするはずがない。 "ファイヤーボール"の詠唱が終わる。 瞬間、フーケの真横で爆発が起きた。 人形のように吹き飛ぶフーケ。 タバサが杖を振り、"レビテーション"をかけて落下するフーケをシルフィードの上に運ぶ。 術者が気を失ったためかゴーレムが崩れ土の塊へと戻る。 ルイズは安堵すると大きく息を吐いた。 やりとげたことを実感すると、途端に全身から力が抜けてその場に崩れ落ちる。 シルフィードから落ちないようデュフォーが襟を掴んだ。 「ぐえっ!」 襟が引っ張られ首が絞まる。 「何すん――」 文句を言おうとルイズは鬼のような形相でデュフォーを睨んだ。 が、いつもと変わらないその顔を見ると怒りは急速に萎んで何だか笑いがこみ上げてきた。 「ふ、ふふふ、あははは!」 キュルケが『凄いじゃない、ルイズ!』と褒めてきたが、それよりもデュフォーのよくやったなと褒めるでもないその態度が今は無性に嬉しかった。 そのまま学院に戻るまでルイズは笑い続けた。 前ページゼロの答え
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7081.html
前ページ次ページゼロと世界の破壊者 第4話「ルイズの闇」 ルイズと士が教室に入ると、先にそこに居た生徒達が一斉に二人の方を向き、そしてくすくすと笑い始めた。 「あいつら、何がおかしいんだ?」 「自分の胸に手を当てて考えてなさい」 その一言で士は自分が笑われてる事は判った。だが、自分の何がおかしいのかは見当もつかなかった。 教室には既にキュルケもおり、周りを複数の男子達に取り囲まれてまるで女王の様に祭り上げられていた。 キュルケも二人に気が付くと、そっちに軽く手を振った。 「友達か?」 「あいつの事は気にしなくていいの」 ルイズはキュルケの事を無視して教室の中を進んだ。 士は教室の入り口から教室全体をとりあえず一枚、カメラに収める。 教室の生徒達は皆、様々な使い魔を連れていた。フクロウにカラスに猫、普通の動物に紛れて宙に浮かぶ目玉やら蛸人魚やら見た事も無い生物もいた。更に教室の外には教室に入れない程大きな蛇やら竜やらもいる。 (なるほど、俺はあいつらと同じ扱いと言うわけか…) 様々な種類の使い魔がそこにはいたが、果たして士と同じく人間を使い魔とした者はその場にはいなかった。 本来はハルケギニアの生物や幻獣を使い魔とすると昨日聞いた。すなわち使い魔=獣。喩えるなら龍騎の世界のライダーとミラーモンスターの関係に近いかもしれない。 そう考えると士が笑われるのも無理もない気がする。 「何ボーッと突っ立ってんのよ?とっとと歩きなさい」 先に行ったルイズに促され、士はその後を追った。 ルイズは教室の後ろの端、努めてあまり目立たない席に腰掛けた。士も倣ってその隣に座った。 「ここはメイジの席よ、使い魔は床」 「貴族様ってのはどうにも器量が小さいらしいな」 士はカメラで教室の至る所を写しながらそう言い放った。 ルイズは眉を顰めたが、それ以降何も言わなかった。 始業の鐘が鳴り、教室の扉が開いて教師と思しき中年のふくよかな女性が入って来た。女性は教室の中央、最下段に設置された教卓の場所で立ち止まる。 教師の女性が入ってくるや生徒達の談笑が止み、教室がにわかに静まる。 「あれが教師か」 士は教卓の前に立った女性を一枚カメラに収めた。 「授業中あんまりカシャカシャやんないでよ」 念のためルイズは釘を刺しておく。下手に動かれて授業妨害されたりしたら怒られるのは主人であるルイズである。 教師の女性は教室の真ん中から生徒達を見回すと、満足そうに微笑んで言った。 「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」 ルイズが俯く。 「おやおや。そう言えば随分と変わった…使い魔を召喚したのでしたね、ミス・ヴァリエール」 途中の『…』は、ルイズが召喚したのが士だけでなく写真館も一緒にだと知っていたからであろう。シエスタが言うに既にルイズが家を召喚したと言う事は学院中に知れ渡っているらしい。 すると教室中がどっと笑いに包まれた。 「ゼロのルイズ!平民の家を召喚しただなんて一体どういう失敗の仕方だよ!」 肩にフクロウを乗せた小太りの男子生徒がルイズに侮辱の言葉を浴びせる。 ルイズはがたりと椅子を鳴らしてその場に立ち上がった。 「私だって好きで喚び出したワケじゃないわよ!勝手に出て気ちゃんたんだから!」 「それにしたって家ごと召喚なんて常識はずれにも程があるよ!」 「さすがゼロのルイズ!俺達に出来ない失敗を平然とやってのけるッ!」 「そこにシビれる!あこがれるゥ!」 教室中から次々と合いの手が入り、教室は爆笑の渦に包まれた。ルイズは怒りで肩をブルブルと震えさせていた。 するとルイズを侮辱した生徒達の口に、突然現れた赤土の粘土がぴたっと張り付いた。業を煮やしたシュヴルーズが魔法で無理矢理彼らの口を塞いだのだ。 「皆さん、お友達を侮辱してはいけませんよ?」 シュヴルーズにそう言われ、笑っていた生徒達も自ら口を噤んだ。ルイズも怒りの捌け口を見つけられないまま、仕方なく着席し直した。 士はその間、ずっと写真を撮り続けていた。 「変な所ばっか撮らないでよ!」 ルイズはそんな士を小突いたが、直ぐさまシュヴルーズの注意が飛んで来たためそれ以上何も言えなかった。 その後すぐに授業は始まった。 授業の内容は『土』系統の魔法に関する講義で、自分の操る『土』系統の魔法がどれだけ生活に役立たされているかと言う半ば自慢話のような内容をシュヴルーズは延々と繰り返した。なので『土』系統ではない生徒達には退屈極まりの無い内容の授業であった。 それでもルイズはシュヴルーズの話をしっかり聞き、一心不乱にメモを取り続けた。 士はその間ずっと教室の様子をカメラに収めていたが、ルイズはそんな士の事などまったく気に留める事なく授業に集中していた。 そんなルイズの様子に、士は素直に感心してその横顔をカメラに収めた。 授業の途中、シュヴルーズが教卓の上に置いた小石に向かって杖を振り上げ、ルーンを呟いた。すると石が光だし、それが収まると石はピカピカの金属の塊になっていた。『錬金』の魔法によってただの石ころを真鍮へと変えたのだ。 これには士も思わず顔を上げた。 「このように『錬金』の魔法で様々な生活で必要な物質を生み出す事が出来ます。今から皆さんにはこの『錬金』の魔法を覚えてもらいます。では試しに誰かに実演してもらいましょう」 そう言ってシュヴルーズはぐるりと教室を見回した。そしてずっと集中して授業を受けていたルイズに目が止まった。 「それでは、ミス・ヴァリエールにやってもらいましょうか」 シュヴルーズがそう言った瞬間、突然教室の空気が変わった。 にわかに生徒達がざわつき出す。不安や恐れの感情が渦巻き、彼らの中で1年前の悪夢が蘇っていた。 「先生、止めておいた方が良いと思います」 徐にキュルケが手を挙げてシュヴルーズに進言した。 「何故ですか?」 「危険です」 聞き返すシュヴルーズに対してキュルケきっぱりと言った。他の生徒達が「うんうん」とそれに同調して頷く。 「ミセス・シュヴルーズはルイズを教えるのは初めてですよね?」 「えぇ、ですがミス・ヴァリエールが努力家だと言う事は聞いてます。現に先程も私の話を集中して聞いてましたよ」 するとキュルケは今度はルイズの方を向いた。 「ルイズ、お願いやめて」 蒼白な顔で嘆願する。 士には何故そこまでルイズの魔法を恐れるのか判らなかったが、こうまで言われたルイズが大人しく引き下がるわけが無いであろうと事は理解出来た。 「やります」 案の定、ルイズは立ち上がって、生徒達の静止も聞かずシュヴルーズの待つ教卓の前まで歩いて行った。シュヴルーズはにっこりと笑ってルイズを迎える。 すると、士の前に座っていた生徒がいきなり机の陰に隠れた。周りを見渡してみると、他の生徒達も皆机の陰に隠れている。 士は周囲の生徒達の行動を不振に思いつつも、教卓の前に並び立つルイズとシュヴルーズの姿をカメラに収めていた。 そして士がカメラのレンズから目を離した瞬間。 ルイズが魔法をかけた小石が突然爆発した。 爆風でルイズとシュヴルーズが黒板に叩き付けられる。 生徒達から悲鳴が上がり、驚いた使い魔達が大暴れを始め、教室中が阿鼻叫喚の大騒ぎとなった。 シュヴルーズは衝撃で気絶してしまったようだが、同じく爆発を至近距離で食らったルイズは煤で真っ黒になり服をボロボロにしながらも平然と立ち上がり、淡々とした口調で言った。 「…ちょっと失敗みたいね」 瞬間、教室中からブーイングが上がる。 「ちょっとどころじゃないだろ!ゼロのルイズ!」 「いつだって成功確率ゼロじゃないか!」 「だからルイズなんかに魔法を使わせるんじゃないって言ったのよ!」 「もうゼロなんて退学させちまえ!」 生徒達から次々と上がる罵詈雑言。その中心にいたルイズは平然とそれを受けながらも、杖を握った手が微かに震えていた。 その様子を写真に収めた士はレンズから顔を上げて呟いた。 「…だいたいわかった」 あの時シエスタが言おうとして言わなかった事。 『ルイズは魔法が使えない』のだ。 結局生徒達のブーイングは騒ぎを聞きつけた別の教師が現れるまで続いた。 シュヴルーズは即座に保健室に担ぎ込まれ、授業は中止。 崩壊した教室の片付けはルイズが、罰として『魔法無しで』と命じられたが、ルイズは魔法が使えないのでその罰則には殆ど意味は無かった。 ちなみに士はルイズの使い魔なので、有無を言わさず片付けを手伝わされていた。 士は主に重労働担当で、新しい窓ガラスや机を教室に運び込んだ。 ルイズは一度寮の部屋に戻って破れた服を着替えた後、煤で汚れた床や机の掃除や割れたガラスの片付けを担当した。 今は殆どの作業が終わり、ルイズと士は手分けして仕上げに雑巾で机の上を拭いていた。 片付け作業中、二人とも殆ど口を聞かなかった。作業をする上での必要最低限の会話は行ったが、それ以外では全くであった。 「…ゼロ、か」 士はルイズより先に自分の担当区分を終わらせると、ぽつりとそう呟いた。 瞬間、ルイズの動きが止まった。 「魔法を使うといつも爆発ばかり起こして失敗してしまう『ゼロのルイズ』…こいつは傑作だな」 士は笑いを抑えたような口調でそう言った。 ルイズの肩が怒りでわなわなと震える。 「確かこの世界じゃ魔法が使えるから貴族だったな?魔法も使えないくせに貴族、俺の事を平民と罵り蔑み自分の事は棚に上げ、…全く良いご身分だな」 「…アンタに、何がわかるのよ…」 ルイズが絞り出す様に声を出す。士はルイズの方を向いた。ルイズは机に両の手を付いたまま俯いている。 「……そうよ、アンタの言う通り私は魔法が使えない。どんなに勉強して、何度ルーンを唱えても!…いつも!爆発するばかり!!」 ルイズの口調がだんだんとヒステリックなものに変わっていった。 「失敗する度に勉強した…。何度も練習して、魔法を試してみた…。けど、結局は失敗の爆発が起こるだけ!私がどんなに努力しても、それは全部無駄に終わるの!! ……貴族は魔法が使えるから貴族って、アンタも言ったわよね。…そうよ、その通りよ。なら、魔法の使えない貴族に、存在してる意味なんてあると思う!?」 士は、何も応えない。ただじっとルイズの言葉に耳を傾けている。 「…そんなの、あるわけない。…私には、存在している意味なんて無いのよ…。…アンタみたいに…最初から魔法が使えない平民なんかに、私の気持ちなんてわからない!わかってたまるか!!!」 ルイズは士の方を向いて思いっきり叫んだ。ブロンドの髪を激しく揺らし、目元を赤く染め、鳶色の瞳に涙をたっぷり浮かべていた。 ルイズはずっと苦しんでいた。魔法の使えない自分に、それにも関わらず貴族に生まれてしまった自分に。自分と言う存在が、ただ存在しているだけで、どれだけヴァリエールの家名を汚したのであろうか。 ルイズが流したのは悔し涙だった。自分を侮辱した士に対する怒りよりも、不甲斐無い自分への悔しさが大きかった。 「…くだらないな」 しかし、感情を爆発させたルイズとは裏腹に、士は冷ややかに言い放った。 「…なん…ですって…?」 ルイズが眼を細めて士を睨みつける。しかし士は平然と続けた。 「くだらないって言ったんだ。たかが魔法が使えるだの使えないだの、要は人より強い力を持ってるか持ってないかの違いだろ?その程度で自分の存在だのなんだの、くだらない以外の何ものでもない」 「な………っ!」 ルイズは、唖然とした。この男はあろう事か、魔法の存在を、この世界の在り方を、根本から否定したのだ。 「…あ、アンタには判らないのよ!魔法の無い世界から来たアンタなんかには!魔法が使えるって事がどれだけ大切か!!」 「判るさ。…魔法じゃないが、俺も人より優れた力を持った連中をたくさん見てきたからな」 「魔法じゃない、力…?」 「そいつらの中には、力に溺れて自分の欲望のために力を振るう連中もいた。だが、そんな連中から弱き者を守るために力を使う奴らもいた。大事なのは、力の有無じゃなくて、その力をどう使うかじゃないのか?」 「…っ!」 士の話の内容に、ルイズは心当たりがあった。 ルイズは、貴族と言う身分でありながら、魔法と言う力を武器にして、弱き者、平民を虐げる愚かな貴族の姿をたくさん見てきた。 ルイズはそんな彼らの事が許せなかった。魔法が使えるにも関わらず、それを自分の欲望のためだけに振るう彼らが。 彼らは貴族なんかじゃない。貴族と言う皮を被り、魔法と言う武器を振るうだけのただの暴君だ。 ルイズは、本当の貴族と言うものを知っている。ただ力を誇示するだけの暴君じゃない、魔法を使って、民を守り、領地を守り、国を守る誇り高き存在こそ、真の貴族である、そう子供の頃から両親や姉に教え込まれてきた。 「…でも」 貴族の在り方、メイジの在り方、そんなものは当に判っている。 「…だからって何よ…!力を…魔法をどう使えば良いか、そんな事判ってても、私には、その肝心の魔法の力が無いのよ!?ならそんなの意味はない…!やっぱり魔法が使えないんじゃ、私は………!」 ルイズは歯を噛み締め、拳を力強く握り締めた。 士の言ってる事は、概ね正しい。しかしそれは力を持つ者にこそ有効な言葉だった。 魔法が使えない、魔法の力を何よりも欲しているルイズにしてみれば、ただの戯れ言でしかない。舌先三寸でどう言いくるめようとも、ルイズが魔法を使えないと言う事実は何も変わらないのだ。 「…そんなに力が欲しいのか?」 士が静かに尋ねかけた。 「………欲しいわ」 少し言葉に詰まりつつも、ルイズは正直な欲求を吐露した。 「何のために?」 「何の、ため…?」 しかし士は更に問いかけた。 思わずルイズは顔を上げる。 「そうだ。魔法の力を手に入れて、お前はその力を何のために使う?」 「…そ、そんなの決まってるわ!貴族の義務を果たし、我がヴァリエールの家名のため、ひいては祖国トリステインのために…!」 「そうじゃない。義務だの家名だの祖国だの、そんなお決まりな答えじゃない。お前自身はその力でどうしたいんだ?」 「…わ、私自身…?」 そんな事考えた事も無かった。貴族としての義務、家のため、名誉のため、祖国のため、子供の頃からそう教えられ、そして今の今までそれが当たり前として何の疑問も感じた事は無かった。 だがこの目の前の男は、ただの平民の使い魔は、凝り固まったルイズの価値観に一石を投じたのだ。 「わ、私は…」 改めて考えた。自分は、自分自身は何のために魔法の力を欲するのだろう? ルイズは、貴族でありながら魔法が使えない。その事で"ゼロ"と言う不名誉な称号を与えられ、"劣等生"、"落ちこぼれ"の烙印を押された。 そんなルイズは人一倍努力した。人よりも多く魔法の勉学に励むために時間を割いた。そう、ルイズは"ゼロ"の称号を払拭するために魔法の力を強く欲しているのだ。 だけど———。 「ただ、お前をゼロだと馬鹿にした奴らを見返したいだけか?」 「………」 それだけだった。 魔法が使えるようになって、"ゼロ"の汚名を返上して、ルイズが自分で考えていたのはそこまで。それから先なんて考えた事も無かった。 ただ漠然と、子供の頃から教えられた『貴族としての義務』を果たすんだと考えていただけだった。 ルイズは士を見た。 士は、真っ直ぐルイズを見ている。まるで心の奥まで見透かすような視線。下手に口先だけで誤摩化そうとしても無駄であると言わんばかりの眼力だ。 「……わ、わた、し、は……」 言葉に詰まる。何も言い返せない。 結局ルイズは『人を見返したい』ためだけに魔法を欲していたのだ。 そうしてルイズが言葉に詰まっていると、士はルイズから視線を外し、そして踵を返した。 「え…?」 惚けるルイズを尻目に、士はルイズに背を向けたまま口を開いた。 「その程度の答えも出せないお前には、どんな力も宝の持ち腐れだ」 それだけ言い残して士は教室の扉へと歩き出した。 「ちょっ…!ちょっと待っ……!」 慌てて静止させようとするルイズだが、途中で理性がルイズ自身を引き止めた。 士を引き止めて、どうするのだ? ルイズは見限られたのだ。不甲斐無いルイズは、使い魔として契約した青年に見捨てられたのだ。 そしてその地に落ちた権威を復活させる方法を、ルイズは何一つ思いつかなかった。 (……遂には使い魔に見限られるなんて…私って……) ルイズはその場にへたり込む。身体に力が入らず、その場で項垂れる。 教室の外へ出た士が扉を閉める。 バタン。 乾いた音が教室に木霊する。 「…本当、メイジ失格…ね…」 自嘲気味な笑みが浮かぶ。 鳶色の瞳から落ちた大粒の涙が、床に落ちて四方に弾けた。 昼休み開始の鐘が鳴り、ルイズは昼食を取るべく『アルヴィーズの食堂』を訪れた。 正直そんな気分じゃないのだが、身体は正直である、お腹の虫がルイズに昼食を取れと命じるのだ。 食堂に入るとルイズはふと食堂全体を見渡してみた。しかしやはりと言うか、そこにはルイズの求める人物は見当たらなかった。 (…当たり前よね、ここ、…平民が入れる所じゃないし…) それ以前の問題であるのだが、ルイズはそれを認めてしまうのが怖かった。 「あらルイズ、片付けお疲れさま♪」 するとその前に宿敵キュルケが現れた。 「キュルケ…」 キュルケはまた盛大に失敗魔法を繰り出したルイズをからかうつもりで声を掛けたのだが、意外にもルイズが気の無い返事を返したため、キュルケは怪訝に思った。 「…あんた、何かあったの?」 普段と違うライバルの様子に、キュルケは思わず心配してしまう。 「…なんでもないわよ」 ルイズはそっぽ向いて言った。 「とてもじゃないけど何もなかったようには見えないんだけど」 「何もないわよ…」 尚も否定し続けるルイズに、キュルケは少し苛立ちを覚えた。 「あっそ!そう言えばあんたの使い魔の姿が見えないわねぇ。もしかして、いよいよ見限られたとか?」 少しカマを掛けるつもりで、いつものようにからかう口調で言ったつもりだった。 その瞬間、ルイズは目の前が真っ白になった。 「何でもないって言ってるでしょうっ!!!!!」 食堂中にルイズの叫び声が響き渡る。 あまりの大声に食堂が一瞬静まり返った。その場にいた生徒達の視線がルイズに集まった。 「…なんでも、ないんだから…」 尚も否定の言葉を呟いて、ルイズは食卓の方へと歩いていってしまった。 「…ちょっと、まずったわね」 今のやり取りで大体の事情を察し、キュルケは自分が地雷を踏んでしまった事を理解した。 ルイズは食卓に着くと昼食を取り始めたのだが、やはりどうにも食は進まない。 いつもは食欲をそそる目の前の料理が、ただの無意味なオブジェにしか見えない。 「使い魔に逃げられたのがショックで、食欲も無くした?」 するとその隣の席に何故かキュルケが座った。 ルイズは一瞬キュルケを睨みつけたが、すぐ無視して皿に盛り付けた料理との格闘を再開させる。 「無視…ね。相当ショックだったみたいね」 黙々。ルイズは機械的に皿の上の料理を口に運び、咀嚼すると言う作業を繰り返す。 「何言われたか知らないけど、愚痴くらい聞くわよ?」 尚も黙々と料理を頬張るルイズ。その姿にキュルケは親友の少女の姿を重ねた。 「…っ〜〜ぅ!もう!何あんたまでタバサみたいになってんのよ!タバサのあれは可愛げがあるけど、あんたまでそれじゃあ幾ら何でもこっちの調子が狂っちゃうのよ!!」 しかしルイズは相変わらず。話しかける度にルイズに対する苛立ちが募ってゆく。 キュルケははぁと大きな溜息を付いた。 「…大方、失敗魔法見られて愛想つかされたって所でしょうけど、そんなんで落ち込んでどうすんのよ?いつものあんたなら『絶対に見返してやる!』って息巻くんじゃないの?」 ぴくり。ルイズが微かに反応を見せた。 「そもそもあんたそうやってずっと落ち込んでるつもり?まぁ私は別に良いんだけど、そのままじゃあんたは一生ゼロのままよ!私には関係ないけどね!」 するとそれまで人形のようだったルイズがふうと小さく息を吐いた。ゆっくりと首を回して、半眼でキュルケの方を見た。 「…まさか、アンタに励まされる日が来るとはね、ツェルプストー」 そう言われて、キュルケの頬に朱が差した。 「べ、別にあんたの為に言ったんじゃないんだからね!ライバルが不甲斐無いんじゃ張り合いが無いと思っただけよ!」 なんだかいつもの自分が言いそうな台詞だと思って、ルイズは小さく笑った。 「礼は言わないわよ」 「要らないわよ、言われたら逆に気味が悪いわ」 キュルケは手をひらひらさせてルイズを突っぱねる。 いつも通り、と言うにはまだ程遠いが、ルイズは普段の調子を取り戻しつつあった。そのきっかけがキュルケ、と言うのが少し癪だが。 「…ねぇキュルケ、アンタはこの学院を卒業したらどうするの?」 「何よ、薮から棒に」 「良いから答えて」 「…そうねぇ」 返答を急かされて仕方無くキュルケは思案する。 「普通に考えたら従軍ね。あんたも知っての通りうちは軍人の家系だしね。…あぁ、でもあたしは実家とがアレだから…もしかしたら適当に手柄立てて独立するかもしれないわ」 「…つまり何も決まってないわけね」 ルイズは冷ややかに感想を述べた。 ルイズの方から振ったくせにあんまりにもな反応に、キュルケは流石に苛立ちを覚える。 「なによ。じゃああんたはどうするって言うのよ?」 「…わかんないわよ、そんな事」 特に取り繕うわけでもなく、ルイズは素直にそう答えた。 意外な返答が返ってきた事に、キュルケは少し驚いた。 わからない。それがルイズの正直な気持ちだ。ルイズの場合はその前に魔法を使えるようにならなければ意味が無いのだが、もし魔法が使えるようになった時、その力を何のために使うのか、士に出された問の答えは『わからない』が現状だ。 「…よく判らないんだけど、それって今答えを出さなきゃいけない事なの?」 キュルケが尋ねる。 「別にクサい事言うつもりは無いんだけど、あたし達ってその答えを出すためにこの学院に通ってるんじゃないの?あたし達はまだ2年に上がったばかり、就学期間は後2年もあるのよ?その間に答えを出せば良いんじゃないの?」 キュルケの言う事はもっともだ。ルイズも肯定せざるを得ない。 だけど、ルイズにはそれじゃダメなのだ。その答えが出せなかったから、ルイズは士に見限られてしまった。確たる答えを見つけ出さない限り、ルイズは士に自分を認めさせる事なんて出来ないと考えていた。 (…また、認めさせる、か) 結局自分はそればっかり、とルイズは自嘲した。 その様子をキュルケは隣で訝しげに思っていた。 するとそんな折、突然食堂に『パシーン!』と言う乾いた音が響き渡った。 食堂にいた殆どの生徒が何事かと音のした方向に視線を集める。 例に漏れずルイズ達もそちらを見ると、よく見知った金髪巻き髪の少年・ギーシュが、1年生と思しき栗毛の少女に頬をひっぱたかれていた。 「その香水があなたのポケットから出て来たのが何よりの証拠ですわ!さようなら!」 栗毛の少女はそのまま走り去り、食堂から出て行ってしまった。 取り残されたギーシュはと言うと、呆然として叩かれた頬を擦っていた。 「…なにあれ?」 「ギーシュね。大方二股だか三股だかがバレたんでしょうよ」 ギーシュと言えば、色男で有名である。 確かに顔はそこそこイケてると思うが、ルイズにとってはそれだけだった。 それにギーシュの噂話を聞く機会は少なからずあった。ルイズ達も年頃の女の子である、色恋沙汰の話となるとそこら中で聞く機会が多い。中でもギーシュに関する話は数知れず、聞く度にルイズは何股掛けてるんだと心の中でツッコミを入れていた。 今回はどうやらキュルケの言った通りのようで、その証拠に今度は見事な巻き髪の、ルイズと同学年の少女・モンモランシーが厳めしい顔つきでギーシュの下に近付いて行った。 「モンモランシー、誤解だ」 何とか弁明しようとするギーシュだったが、モンモランシーはまったく聞く耳持たず、テーブルの上に置かれていたワインの瓶を持ち上げると、その中身をギーシュの頭の上からどぼどぼと注いだ。 「うそつき!」 そしてそう吐き捨てると、モンモランシーは涙目でさっきの栗毛の少女と同じ様な動きで食堂から走り去って行った。 しんと静まり返る食堂、皆の注目を集めていたギーシュはと言うと、気障ったらしい仕草でハンカチで顔を拭きながら、 「あのレディ達は薔薇の存在の意味を理解していないようだ」 などと芝居がかった口調でその場を必死に取り繕っていた。 「ザマぁないわね」 「まったく」 二人は揃って同じ感想を口にした。 騒動も終息し、食堂がいつもの喧噪に包まれ始める。 ルイズもそろそろと思った時、ギーシュの声が食堂に響いた。 「待ちたまえ!」 再び注目の的になるギーシュ。そのギーシュが相方として舞台に上げたのは、黒髪のメイドの少女であった。 「君が軽率に香水の瓶なんかを拾い上げたお陰で二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」 どうやらギーシュはそのメイドに難癖をつけて、自分がかいた恥の責任を全て彼女に押し付けようと言うのだ。 「…なんかもう哀れを通り越して痛々しいわね」 ギーシュ自身は自分のプライドを守るためにやってるのだろうが、はっきり言って見苦しい。キュルケを始め他の生徒達も似たような感想だろう。 そして相方のメイドはと言うと顔を真っ青にして怯え切ってしまっている。何があったかは知らないが、可哀想に、とキュルケはそのメイドを哀れんだ。 が、その横で同じく推移を見守っていたルイズはそうはいかなかった。 「あの子、確か…」 ルイズは自分の記憶の中から黒髪のメイドの情報を探り出すと、ルイズは立ち上がって、ギーシュ達の方へと足を向けた。 「ちょっとルイズ?あんたちょっかい出すつもり?」 黙って行かせる事も気が引けるので、キュルケは一応ルイズを引き止めた。 「…アンタ、あの子の事何か知ってる?」 「あの子って、あのメイド?確かに黒い髪は珍しいから印象には残ってるけど…」 別にそれ以外はただのメイドだ。特に際立って親しいわけでもない。 ルイズは小さく息を吐いた。 「あの子、メイジにトラウマ持ってるのよ!」 それだけ言って、ルイズはギーシュ達の所に吶喊して行ってしまった。 残されたキュルケはと言うと、暫し呆然としていた。 「…あの子が、平民の事を覚えてる何てねぇ…」 ライバルの意外な一面を垣間見て、キュルケは少しだけ感心した。 「さて、どう落し前を付けてもらおうかな?」 薔薇の造花を象った杖を手にし、下賤な笑みを浮かべてギーシュはじりじりとメイドの少女・シエスタとの距離をつめる。 シエスタは後ずさろうとするが、恐怖で足が縺れてしまい、床に尻餅をついてしまった。 助けを求めようにも、周りの貴族達は皆一様に好機の眼差しでこの状況を観覧しているだけで、誰も助けに入ろうとはしない。 シエスタの給仕仲間達も、相手が貴族とあっては、助けるに助けられない。 「どうやら君にはキツーいお仕置きが必要のようだな」 シエスタに杖が向けられる。 かつての炎の記憶が蘇り、シエスタの心が恐怖に支配される。 (助けて!———!) 「やめなさい!」 心の中で助けを求め"彼"の名を叫ぼうとした瞬間、そこに待ったが掛けられた。 新たに舞台袖から登場した人物は、桃色の髪を揺らしたルイズであった。 「ミス・ヴァリエール…」 「ルイズ、一体何のつもりだ?」 ギーシュが忌々しげにルイズを睨みつけた。 「アンタこそ何のつもりよ!自分の失態を下の者に押し付けるなんて、貴族としてみっともないと思わないの!?」 ギーシュは眉を顰めた。周囲からも「そうだそうだ!」とルイズに合意する野次が飛ぶ。 「フン、彼女の先走った行いの所為で二人もの純真な少女達が傷ついたんだ!お仕置きを受けて当然だ!」 「そもそも二股なんか掛けてるアンタが悪い!」 ルイズはきっぱりと言い切った。瞬間、周囲がどっと笑い出す。 「その通りだギーシュ!お前が悪い!」 誰かが叫ぶと、ギーシュの顔に赤みが差した。 「…ゼロのルイズのくせに…!」 苦々しくギーシュが吐き捨てる。 するとルイズの眉がぴくりと動く。これを見逃さんとギーシュが反論する。 「ゼロのルイズ!自分が魔法を使えないからって同じ魔法の使えない平民を味方か!ヴァリエール公爵家の名が廃るな!」 ギーシュの感情に任せた精一杯の反撃だった。 もしギーシュに冷静な判断が残っていれば出来るだけ穏便に済ませようとする筈だった。 だが愛する少女達に愛想を尽かされ、周囲の連中の笑い者にされ、魔法も使えない自分より格下(と思っている)少女に図星を突かされ、ギーシュはすっかり心の余裕を無くしていた。とにかく何か言い返さなければ、自分のプライドが許さなかったのだ。 「わ、私がゼロだとかは今は関係ないでしょう!?そう言うアンタこそ、自業自得で恥かいて、その憂さ晴らしに平民に杖を向けるなんて、貴族の恥さらしも良いとこよ!さっきの台詞そっくり返すわ。グラモン家の名が廃るわよ!」 「ぐっ…!」 だがその反撃もあっさり返されてしまった。 ギーシュは言い返す事が出来なかった。何より自分に流れる貴族の血がルイズの言い分を肯定していたのだ。 そして周囲の野次馬達の興味は、すっかりギーシュがどう謝るかと言う一点に集まりだしていた。 謝る?僕が?誰に?ルイズに?…いや、ルイズに謝るなら、当然その後ろで尻餅をついているメイドにも頭を下げなきゃならなくなる。つまりそれは自分の非を全面的に認めた上で、平民なんかに頭を下げなきゃならないと言う事だ。 そんな事は、プライドが許さなかった。 なれば、残された手は———。 「…決闘だ」 「え?」 「決闘だ!ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール!このギーシュ・ド・グラモン!君に決闘を申し込む!!」 「はぁぁぁぁ!!?」 ギーシュは芝居がかった仕草で大袈裟に宣言した。すると周囲から「うおおおお!」と歓声が上がった。 だが当のルイズは、あまりにも無理矢理すぎる流れにまったく納得がいかなかった。 「学院内での決闘は禁止されてる筈よ!判ってるの?」 「おや?公爵家ともあろうお方が恐れを成して逃げ出そうと言うのですかな?」 ギーシュはあくまでも優雅に、ルイズを挑発した。 もうどうしようもなかった。流れが無茶苦茶すぎるとか、学則違反だとか、相手が公爵家だとか、そんな問題些細な事に思えた。とにかく自分のプライドを守るためにはこうするしか、自分の力でルイズを屈服させ、頭を垂れさせるしか無いと判断したのだ。 完全に攻守が逆転し、今度はルイズが選択を迫られた。 決闘を受ければ、魔法の使えないルイズにはまず勝ち目は無いだろう。 だからと言って断れば、ルイズに新たな不名誉な称号が与えられる。今のこの状況、その不名誉な称号はあっという間に学院中に広まり、また自分がヴァリエールの家名を汚す事になるかもしれない。 ルイズにとってそれ以上に堪え難い苦痛は他に無かった。 「い、良いわよ!その決闘!受けてやろうじゃない!!」 瞬間、周囲から『おおおお!!』と言う歓声が上がった。 ギーシュの口元が嫌らしくつり上がった。 「よく言った、ルイズ。…そうだな、この食堂を血で染めるのも忍びない。『ヴェストリィの広場』で待っているよ!」 そうとだけ言い残して、ギーシュはその取り巻きを連れて食堂から去って行った。 後に残されたのはルイズとシエスタ。ルイズは勢いに任せて何て事をしてしまったのかと今更ながら後悔した。 もう一人、シエスタはと言うとその場にへたり込んだまま顔を真っ青にしていた。 「…ミ、ミス・ヴァリエール……」 シエスタが涙目でルイズを見詰める。 「…な、なん、で…そ、そんな…わた、私なんかの、ため、に…そ、んな……」 様々な感情が渦巻いてシエスタは上手く言葉を紡ぐ事は出来なかった。 そんなシエスタの言動がおかしくて、ルイズは思わず吹き出してしまった。お陰で少しだけ気が紛れた。 「別にアンタを助けたワケじゃないわよ。ただ貴族として、ギーシュを許せなかっただけ」 少し無理矢理だが笑みを作ってルイズは虚勢を張って見せた。 「…で、でも……」 シエスタは尚も食い下がる。全ては自分が撒いた種、その自分の不始末を恐れ多くもミス・ヴァリエールに押し付けてしまうなど、決して許されざる行為なのだ。 「…ホント、どうするつもりなの?ルイズ」 するとそこに事の推移を傍観していたキュルケが二人の間に入ってきた。 「どうするも何も、決闘受けちゃったんだから、やるしか無いわよ」 「ゼロのあんたに何が出来るって言うの?」 「う"」 痛い所を疲れて閉口する。 この世界に於いて魔法とは絶対の力の象徴。故に平民はメイジに絶対に勝てないと言うのが常識だ。 ギーシュは最低クラスのドットクラスであるが、対してルイズはゼロ、魔法が使えない。そう言う意味ではルイズは平民と殆ど変わらないのだ。 「な、何とかなるわよ!何とか!」 「ま、殺される事は無いだろうけどね」 ルイズは曲がりなりにも公爵家、それにギーシュはフェミニストでもある、命を取る事はまず無い筈だ。 「…アバラの2、3本は覚悟しといた方が良いけれど」 からかう意味合いを込めてそう補足する。 ルイズとシエスタの身体が同時に跳ね上がった。 「あぁもう、好きに言ってなさい!ギーシュなんて返り討ちにしてやるんだから!!」 そう言ってルイズはズンズンと食堂の外へと歩き去って行った。 途中、シエスタが引き止めようと声をかけたが、ルイズは聞こえないのか態と聞こえないフリをしたのか、振り返りもせず食堂を後にした。 「…ま、本当に危なくなったらあたしが止めに入るわよ」 「ミス・ツェルプルトー…」 残ったキュルケが優しい声でシエスタを宥めた。 「さて、と」 そろそろ自分も行きますか、とキュルケがその場で伸びをすると、見知った顔がまだ食卓に座っている事に気が付いた。 「ターバサ♪一緒に行きましょう」 キュルケの親友、青髪のショートヘアーで赤い縁の眼鏡をかけた少女、タバサである。 タバサは食事を終えても尚食卓に着いてひたすら読書に励んでいた。 「いい、興味無い」 タバサは簡潔に返答して立ち上がろうとしない。どうやら昼休みが終わるまでここで読書しているつもりらしい。 「本なんていつでも読めるじゃない。たまにはレクリエーションに付き合うのも悪くないんじゃない?」 キュルケがそう言うと、タバサは小さく溜息を付いて、開いていた本を閉じて椅子から立ち上がった。タバサにとってキュルケは数少ない友人、その友人を無下にしたくはないのだ。 「そうこなくっちゃ♪」 キュルケはからっと笑うとタバサの手を引いてルイズの後を追った。 ただ一人食堂に残されたシエスタは、相変わらず自責の念に囚われていた。 自分の所為でミス・ヴァリエールに迷惑をかけてしまい、あまつさえ決闘を受けるなんて事態になってしまった。 ミス・ツェルプストーはああ言ってくれたけど、それはつまり更に自分の所為で貴族様のお手を煩わせてしまう事になり、シエスタにはより一層の重責がその身にのしかかってしまう事になってしまうのだ。 それにミス・ヴァリエールが魔法を使えない事は平民間でも有名な話だ。つまり力量で言えば平民と大差ない事も同義、もし万が一の事が無いとは言い切れない。 魔法の恐ろしさは、身を以て味わっている。———あの時、"彼"がいてくれなかったら、自分はどうにかなっていたかもしれない。 「…始祖ブリミルよ…どうか…どうかミス・ヴァリエールを…どうか…」 シエスタは両手を合わせてか細い声で始祖にミス・ヴァリエールの無事を願った。シエスタにはそれくらいの事しか出来なかった。 「神頼みか…それも良いだろう」 するとそんなシエスタの元に青年が近付いてきた。 さっき空腹で困ってると聞いたので、調理場で賄い料理を振る舞ってあげたミス・ヴァリエールの使い魔の青年…。 「どうやらこのまま見過ごしたら寝覚めが悪そうだ。…それに、あいつの事もだいたいわかったしな」 シエスタははっとなった。彼は、彼もまた、ミス・ヴァリエールの元に行こうと言うのだ。そして、彼女を助けようと言うのだ。 「だ、駄目です!あなたも平民、貴族様には…メイジには敵いっこありません!…こ、殺されちゃいます!」 彼は身分を持たないただの平民、危険度で言ったらミス・ヴァリエールより遥かに危ない。何とかして青年を引き止めようとするシエスタ。 ミス・ヴァリエールに続き、その使い魔の青年まで行かせてしまったら、ただでさえもう悔やみ切れない事態になっていると言うのに、これ以上は自分はどうすれば良いと言うのだろうか。 だが使い魔の青年はそんなシエスタの静止をまったく意に介さず、悠然と歩き出した。 「お、お願いです!止まって!!」 すると青年はその場で立ち止まった。シエスタは一瞬安堵したが、青年はそのシエスタの方を向いた。 「安心しろ。俺は神だなんて大層なものじゃないが、世界を破壊する悪魔だからな。あんな洟垂れ小僧なんかに負けたりしない」 そしてそうとだけ言い残し、結局そのまま食堂を後にしてしまった。 取り残されたシエスタはその場でただ呆然としていた。 「…悪、魔……?」 彼が言い残した言葉を、シエスタはまったく理解出来なかった。 前ページ次ページゼロと世界の破壊者
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4479.html
前ページ次ページGIFT あわただしい気配が分厚い壁を通り伝わってくるのを、ルイズは退屈しながら感じとっていた。 懲罰房の中に運び込まれた机の上には、どっさりと出された課題の山があるが、全て終了済みだった。 罰として与えられたものだが、今のルイズにとってそれらは退屈な監禁生活の無聊を慰める程度でしかない。 それはさておき……。 推測するに、どうやらかなりのお偉方が学院に訪ねてくるらしい。 どんな相手なのか、意識を集中して感知してみようか? ルイズはそう思いながら、眼を閉じる。 ちくり。 危険や敵意を敏感に感じとる感覚(センス)が反応した。 学院の中ではないが、そう遠くはない。 何者だろう。 ルイズは緊張と興奮、それに奇妙な歓喜を抑えながら意識を集中し続け、それを正確にとらえようとした時、 「ミス・ヴァリエール」 無粋な声が、集中を中断させた。 確認するまでもない。 教師のコルベールだった。 いつもと違い、ちんどん屋みたいにめかしこんで、似合いもしない金髪のかつらをかぶっているのは、お偉方を出迎えるためだろう。 「今日で停学は終了です」 おっほんとわざとらしい咳をしながら、コルベールは言った。 「そうですか」 特に嬉しそうにもしないルイズに、コルベールは不安そうにしながら、 「本日、アンリエッタ姫殿下が、当学院にご行幸なされることになりました」 「姫殿下が?」 ルイズもこれには驚いた。 まだ幼い頃、ルイズは『おそれおおくも』アンリエッタ姫の遊び相手をつとめていたことがある。 言うなれば、アンリエッタはルイズにとって幼馴染だった。 「急なことですが、すぐに歓迎式典の準備をせねばなりません。あなたもすぐに正装して校門前に整列するように」 「わかりましたわ、ミスタ・コルベール」 ルイズに殊勝に頭を下げながら、予感した。 危険を放つ相手は、姫殿下の行列の中にいる……あるいは。 姫殿下本人が、その相手かもしれない。 トリステイン万歳! アンリエッタ姫殿下万歳! 歓声がやかましい中、ユニコーンの引く豪奢な馬車から美姫が姿を見せた。 花のような微笑で歓声に応えるアンリエッタは、年月をへてさらに美しくなっていた。 それを遠目に見るルイズの周辺は、近づく者がいないために円のようになっている。 皆がルイズを恐れているのが実によくわかった。 ルイズにすれば、暑苦しくないのでむしろけっこうなことだが。 「あれが王女? たいしたことないわね、私のほうが魅力的だわ」 不遜な発言しているキュルケの横では、タバサが地面に座り込んで本を読んでいた。 近くにいる……。 ちくちくと、警戒せよ、警戒せよと繰り返す蜘蛛の糸。 その反応は、アンリエッタからはなかった。 ここはほっとすべきことなのか、ルイズは考えたが、特に感慨はわかない。 さらに、糸を伸ばしてみる。 びくんと反応があった。 ゆっくりとその反応先を見てみた。 立派な羽根帽子をかぶり、グリフォンにまたがった美形の貴族が見えた。 どこか――で、見たような顔だった。 こいつか。 相手を確認してから、ルイズは何食わぬ顔で、 「アンリエッタ姫殿下万歳!」 などと叫んでみた。 ふとキュルケのほうを見ると、例の羽根帽子貴族に魅入っている。 なるほどね――。 ルイズは失笑した。 さもありなん。あのツェルプストーが好きそうなタイプだ。 夜、久々に部屋に戻ったルイズは懐かしきベッドに寝転がっていた。 メイドが掃除をしていたのか、放置されていた部屋は埃などもなく、綺麗なものだった。 ベッドの脇にはインテリジェンス・ソードが置いてある。 「久しぶりだよなあ、相棒!」 デルフリンガーが嬉しそうに言ってくる。 「会ったばかりなのに、相棒がすぐにどっかに閉じ込められたとかで、俺ぁ冷や冷やしたぜ!」 「誰に聞いたの?」 「掃除にきたメイドたちが話してたのよ。聞いたぜ、どっかのメイジをボコボコにしたんだって?」 そこから、デルフリンガーの声は不満を含んだものになった。 「冷てえよなあ、相棒は! そういう時こそ俺の出番だろうがよ?」 「さすがに、人のいる前で貴族殺しはまずいわよ」 ルイズはつまらなそうに言った。 まあ、勢いで殺しかけたんだけどね。いや、ていうか、精神的には死んだかしら? 「そのうち、オーク鬼にでも会ったら使ってあげるわよ……」 「絶対だぞ? 約束だからな!」 「はいはい」 ルイズはうるさげにしながら、苦笑した。 だが……。 「ちょっと黙って」 ルイズがそう言うと、デルフリンガーがすぐに沈黙した。 相棒、相棒というだけあって、こういう時の機微はすぐに察知してくれるようだ。 そこのところがルイズには好ましかった。 やはり、ただのおしゃべりな剣というわけでもないようだ。 ドアがノックされた。 はじめに長く、二回。次に短く、三回。 ルイズはすぐに起き上がり、ドアを開けた。 入ってきたのは真っ黒頭巾の若い女だった。 「…………」 ルイズは無言で黒頭巾を迎え入れた。 黒頭巾は杖を取り出して、軽く振った。 探知の魔法、ディティクト・マジックね。 ルイズは部屋に舞う光の粉を見ながら、慇懃に膝をついてみせた。 どこに目が、耳が光っているかわからないものね、そんなことを黒頭巾は言っている。 「……お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」 黒頭巾を取りながら、アンリエッタはそう言った。 「姫殿下も、ご機嫌麗しゅう……」 「そんなことを堅苦しいことはやめてちょうだい、ルイズ!」 アンリエッタはそう言いながらルイズを抱きしめる。 「ああ、ルイズ! ルイズ! ルイズ・フランソワーズ! あなたと私はお友達じゃないの!」 「もったいないお言葉でございます、姫殿下」 とりあえず当たり触りのないことを言ったが、麗しの姫殿下は一人で勝手にヒートアップしていた。 やめて! ここには枢機卿も、母上も、あの友達面して寄ってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ! ああ、もう! わたくしには心を許せるお友達はいないのかしら? 昔馴染みのルイズ・フランソワーズ、あなたにまでそんなよそよそしい態度をとられたら、わたくし死んでしまうわ! 熱の入った一人芝居みたいな繰り言を続ける姿は、ひどく現実離れしていた。 もしかすると、彼女の頭の中では、ここは魔法学院の女子寮ではなく、大劇場の舞台になっているのかもしれない。 ばっかじゃねえの? 姫の『熱演』に接して、ルイズが思ったことはそんなことだった。 だが、同情できないこともなかった。 いつか父がこぼしていた、一見華やかながら、宮廷とは権謀うずまく、魑魅魍魎が徘徊する場所だと。 そんな宮廷生活は相当に精神を蝕むものかもしれない。 といって――ルイズが今まで過ごしてきた生活だって、十分すぎるほど精神を蝕むものだった。 だから、それほど踏み込む気持ちは起きなかった。 そもそも、この姫は何をしにここにきたのだ? わざわざ昔話に花を咲かせるため――まさか……いや。 「だけど、最初見た時は驚いたわ。髪の毛を短くしたのね」 アンリエッタは息をついてから言った。 「最近のことですけど」 「でも、その髪も素敵よ。とっても凛々しくて……」 「感激です。私のことなど、とっくにお忘れになっているものかと」 「忘れるわけないじゃない。あの頃は、何もかもが楽しかったわ」 姫殿下の、声のトーンが変わった。 今まではただの前振り。ここから、本番ということかもしれない。 「あなたが羨ましいわ、ルイズ……。自由って素敵ね――」 羨ましいだと? ルイズはかすかに目を鋭くしたが、アンリエッタは気づいた様子もない。 羨ましい? なるほど、確かに今の自分は羨ましいかもしれない。 神から、あるいは運命というべきか、そういったものから力を与えられたのだから。 とてつもない力を。 しかし、それをアンリエッタは知っているのか? いや、まさかそうとは思えない。 誰もこのことは知らないはずなのだ。 ならば……この姫は本気か、戯言か知らないが、ゼロのルイズという少女に対して羨ましいと言っているのか? 「自由ですか」 「ええ……」 それっきり、アンリエッタは黙りこんでしまった。 どうやらひどく、言いにくいことらしい。 すなわち、それはルイズにとっても穏やかならざるものであるのか。 なら、言わせる必要などない。 そう考えて、ルイズは自身の思考に今さらながら驚いた。 以前のルイズならば、何をさておいてもアンリエッタの隠していることを聞きたがったはずだ。 たとえ、それが破滅につながる道でもあって……。 王家への忠誠。それは貴族の誇りと名誉につながるものだ。 魔法の使えぬルイズにとって、わずかながら自分を支える頼りない柱……だったもの。 けれど、今のルイズはそんなことは考えようとさえしていなかった。 もはや――貴族であることにすがる必要など、どこにもありはしないのだから。 「私は、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになりました……」 まるで葬列に並ぶような表情で、アンリエッタは言った。 「それは」 ルイズは一瞬返答に躊躇した。 普通なら、ここでおめでとうございますと、拍手でもするべきところなのだろうが、姫殿下の表情からそうではないことがわかる。 何となくわかる気もした。 ゲルマニア――あの、褐色の多情な女を思い出しながら、ルイズは考えた。 あの国は、歴史の古いトリステインなどから見れば成り上がり者の国だ。 そんな国に嫁ぐなど、大げさに言えば屈辱以外の何者でもないだろう。 「……」 だがそこで、ルイズの感覚は抜き足さし足と部屋に接近してくる気配を感じとった。 ふん。 無意識のうちに、冷笑がこぼれてしまう。 アンリエッタはそんなルイズに気づかず、ぶつぶつと愚痴とも独り言ともつかない言葉を並べ立て始めた。 ゲルマニアとの婚姻は、両国の同盟のため。 現在アルビオンでは内戦が起こり、王家が敗れそうである。 アルビオンを掌握した反乱軍は、今度はトリステインに牙を向けるだろう。 ゆえに望まぬことではあるけれど……。 しかし、アルビオンの反乱軍は同盟を壊す材料を必死で探している。 もし、そんなものが見つかれば、当然トリステイン、ゲルマニアの同盟はおしゃかになるのだ。 ルイズはそれを話半分に聞きながら、ドア越しで血眼になっているであろうピーピング・トムに意識をやっていた。 ついにアンリエッタは、自分で話した自分の現状に、自ら絶望したのか、 「おお、始祖ブリミルよ……。この不幸な姫をお救いください」 両手を組んで祈りの真似事を始めた。 自己憐憫か、反吐が出る。 ルイズは聞こえないように舌打ちをした。 「それは……大変なことになっているのですね」 そう言ってやると、アンリエッタは顔を覆って震え出した。 いい加減にしろ、このマヌケが……! ルイズは目前の姫を蹴り飛ばしたい気分になった。 自分が世界で一番不幸でございますという態度だが……。 魔法が使えぬせいで屈辱にまみれた人生を送ってきたルイズからすれば、そんな行為は見苦しいものでしかなかった。 「一体何をおっしゃりたいのですか?」 ついにたまりかね、ルイズはいらついた表情でアンリエッタを睨む。 「ルイズ……?」 「せっかくのお越しでございますが、そのようにされていてもわけがわかりませんわ」 冷たく言って、ルイズはしまったと唇を噛む。 適当にめそめそさせておけば……どうせ、そういつまでもここにいられはしないのだ。 そのうちに帰っていったに違いない。 こんなことを言えば、相手に厄介ごとを話させるきっかけを与えてしまうではないか。 「実は……あるものが原因で、婚姻……同盟が壊れてしまうのかもしれないのです」 そうら、きた。 ルイズは大変ですね、とも言えずに、無言でうつむいた。 「私が、アルビオンのウェールズ皇太子に送った手紙……」 プリンス・オブ・ウェールズ……ルイズも知っている、眉目秀麗の凛々しい王子だ。 「それをもし、ゲルマニアの皇室が読めば……決して私を許さないでしょう」 アンリエッタは死にそうな声だった。 「間違いなく、同盟は反故に。そうなれば、トリステインは一国で反乱軍と……」 どんな手紙を送ったのだか。 ルイズは是非とも、手紙を読んでみたい気分になった。 遠いアルビオン、それも今は戦争の真っ最中であるウェールズ王子のもとにあるとすれば、まず不可能だろうが……。 「絶望ですわね」 「ああ。そうです、まさに絶望です! もしも、あれが反乱軍に渡ってしまえば……破滅です!!」 「で、姫様、私にどうしろと?」 ルイズはもはや付き合い切れなくなり、 「そのようなことは、私などではなく、もっと他に相談すべきかたがいらっしゃると思いますが」 信用できる者など……こんなことを話せる者など……と、アンリエッタは苦しそうにうめいた。 だったら、最初からそんなもの送るなと思いつつルイズは、 「もしや、私にアルビオンに赴いて、その手紙を――」 「無理よ、無理よ、ルイズ! わたくしったら、なんてことでしょう! 混乱しているんだわ!」 大げさに首を振るアンリエッタ。 「まったくですわね」 とうとうルイズは吐き捨てるように言った。 「国政に携わっておいでになると、ひどく精神を病まれるというのは大変よくわかりましたけれど」 アンリエッタは弾かれたように顔を上げて、ルイズを凝視する。 幼馴染の冷然とした表情を見て、アンリエッタは力なく肩を落とした。 「そうね。ごめんなさい…………」 ぽつりと蚊のなくような小さな声でルイズに詫びた。 やがて、静かにルイズを見た。 「変わったのね、あなたも」 「ええ。もちろんですわ」 ルイズは微笑んで、 「魔法がまともに使えずに、平民にすら軽蔑され、ついた二つ名がゼロのルイズ。人間が変わるには十分すぎる要因ではありませんか」 ルイズはわざと芝居がかった言動で、意地の悪い顔をしてみせた。 アンリエッタは何も言わない。 「まさか、姫殿下も、そんな落ちこぼれに国の存亡をかけた任務など、本気で任せられるはずもないでしょう」 今度は表情を消し、淡々と言ってみせた。 すると、アンリエッタはドレスの裾をぎゅっと握り締める。 手が震えているのがわかった。 さてと、ルイズはドアのほうへ意識を向けた。 ピーピング・トムはどう出る? どう転んでも……。 「――なあ、そう意地悪をしてやるなや」 いきなり、デルフリンガーが口をはさんできた。 「な、何者です?」 アンリエッタは滑稽なほどに狼狽した。 気品あふれる美姫であるだけに、そのさまは下手な道化師の仕草よりも滑稽だった。 「うるさいわよ」 ルイズはドアの向こうのピーピング・トムが動いたのを感じ取り、舌打ちをした。 どうやらピーピング・トム、今のできっかけをはずされたようだった。 「いいじゃねーか。お前さんだって、今までの懲罰房生活でストレスがたまってただろ?」 「ストレス発散で戦地にいくマヌケがどこの世界にいるのよ」 「ルイズ、ひょっとして、それは……インテリジェンス・ソード」 アンリエッタはルイズの視線と、声の方向からベッドの脇のデルフリンガーに気づいたようだった。 「ええ、そうです。どうせ売れ残りだからと言って、武器屋がただでくれたのですわ」 大嘘こくんじゃねーよ、店メチャクチャにしたあげく、脅しとったくせによ。 デルフリンガーは声に出さずにつぶやく。 「ひょっとして……それがあなたの使い魔なの?」 「まあ……そんなようなものですか」 ルイズは笑う。 そこにデルフリンガーが、 「で。話を戻すがよ、いってやれや、アルビオン」 「簡単に言うんじゃないわよ、アホソード」 ルイズはうんざりとした顔で、 「あんたと違って、私は生身の人間なの。魔法も使えないし」 「下手な魔法よりも強力な爆発が使えるじゃねーかよ」 「やかましい」 「それにお姫様に恩売っときゃあ後で色々有利だぜえ? 三人までは切り捨て御免の殺人許可証とかもらえるかもしんねーしよお」 「もらえるわけないでしょ」 「わかんねーじゃねえか、言ってみなきゃよお」 「いただけますか、姫殿下?」 「いや、それはさすがに……」 とんでもねールイズとデルフリンガーの言葉に、アンリエッタは冷や汗を流す。 「ほらみなさい。恥かいちゃったじゃないのよ」 「まあまあ、いーじゃねーの、いってやれって。友達だろ? その姫様と」 「あんた、いい加減に――」 「いい加減にしろ、この無礼者どもが!」 大声と共に、いきなり誰かが……いや、さっきから部屋をのぞいていたピーピング・トムが乱入してきた。 「きゃあ……!」 アンリエッタは短い悲鳴をあげる。 ルイズはさっさとピーピング・トムを押さえつけ、床にねじ伏せる。 ピーピング・トムは必死で顔を上げて、 「アンリエッタ姫殿下! 是非ともその役目、このギーシュ・ド……もが!」 ギーシュは最後まで口上をのべることはできなかった。 ルイズはギーシュのつけているマントをねじって縄のようにして、猿ぐつわをかましたのだ。 「図々しいのぞきね、どうしてくれましょうか?」 ルイズはついとアンリエッタを見た。 「どうも、話を聞かれてしまったみたいですけれど」 「え、ええ……」 アンリエッタは胸を押さえながらギーシュを見た。 「後々面倒にならないように、始末しましょうか?」 「え?」 「もが……!!」 ルイズの台詞にギーシュは真っ青になる。 がたがたと震えているのがダイレクトにルイズに伝わってくる。 「そうだなあ……。おっと相棒の爆発じゃ他にもばれる。俺を使ってくれよ、ズバーーッといっちまおうぜ」 デルフリンガーは、おら、わくわくしてきたぞ! という口調で言ってきた。 「ダメよ」 ルイズは首を振った。 「そ、そうです、ダメです。殺すなんて」 アンリエッタもそれに賛同してうなずいた。 「あんたなんか使ったら血が出るじゃない」 「ええ。その通りです、血がどばっと……。え……?」 アンリエッタはきょとんしてルイズを見た。 「このまま絞め殺して、近くの森にでも埋めとけばいいわ」 「……!!!」 ギーシュの顔は青を通りこして白くなる。 「い、いけません、ルイズ!」 アンリエッタが制止すると、ギーシュはまるで崇拝する女神でも見るように姫を見上げる。 ありがたや、ありがたや。 今にもそう言いそうだった。 「それもそうですね」 ルイズは表情を和らげてうなずいた。 それを見て、アンリエッタもほっとする。 「姫様に無礼を働いた咎で、手打ちにしたということで。ええ、それでOKですわね」 ルイズは杖を取り出してギーシュの脳天に突きつけた。 「……! ……!! ……~~!!!」 ギーシュは必死で逃げようとするが、押さえつけるルイズの膂力はあまりにも圧倒的で、ギーシュにはどうすることもできなかった。 「じゃ、さよなら」 「なりません、ルイズ!」 ルイズの腕にアンリエッタはすがりついた。 「はやまってはなりません。まずは、話を聞いてみましょう?」 「さようですか」 ルイズはあっさりと引いた。 元より殺す気はなかったのだ。 殺すのなら、こんな場所など選びはしないし、べらべらと戯言などしゃべらない。 アンリエッタにうながされ、猿ぐつわをといてやると、 「……姫殿下! その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう!」 「勇敢ね」 ギーシュの言葉に、ルイズは笑う。 こいつ、どういう場所にいくのか、わかっているのか? 「グラモン? あのグラモン元帥の?」 「息子でございます、姫殿下」 ギーシュは必死の面持ちで言い続ける。 「お願いいたします、姫殿下のお役に立ちたいのです……!」 「それで女の部屋をのぞいてたの? こそ泥みたいに」 「う……」 ルイズのツッコミにギーシュは赤面するが、ぶるぶると顔を振って、 「僕はただただ姫殿下の……」 「あなたも、私も力になってくれるというの?」 アンリエッタはどこか感動したらしくギーシュを見て目を潤ませる。 ルイズは苦い顔でアンリエッタを見た。 あなたも? いつ自分がいくことを了承した? デルフリンガーが勝手なことを言っているが、まだルイズは答えを言っていない。 ルイズがベッドに近づくと、 「まーいいじゃねーの」 デルフリンガーがとりなすように、 「……いざとなりゃ、あの色ボケを囮にでもすりゃいいし、本当にまずけりゃ逃げるって手もあるだろ?」 ルイズにだけ聞こえるように言った。 「そうね……」 ルイズはギーシュを見る。 「姫殿下の御ために働けるのなら、これはもう望外の幸せでございます!!」 ギーシュは真っ赤な顔で感動の声をあげている。 この犬が。 ルイズは内心せせら笑う。 馬鹿犬ギーシュは少しばかりアンリエッタ姫がおだてればほいほい自分で自分の首さえはねそうだった。 いや、まさにそうしようとしているのだ。 五本の指にも満たない少数で戦場に向おうという時点で。 そうこうするうち、アンリエッタは魔法まで使って手紙を用意し、 「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡してください。すぐに件の手紙を返してくれるでしょう。それから……」 はめていた指輪を手紙と共にルイズに手渡した。 「これは母君からいただいた『水のルビー』です。せめてものお守りです。お金が心配なら売り払って旅の資金にあててください」 『水のルビー』……。 その輝きは、どこかルイズの奥底にあるものを引き寄せるようなものがあった。 「へへへ! こいつはいよいよ面白くなってきやがった!」 嬉しそうにデルフリンガーが言ったので、ルイズはぼこんと蹴飛ばしてやった。 前ページ次ページGIFT